異国情緒と薄桃色の病
05

「Wao,ふたりともso cuteだね!」

 拓人が目を細めてふたりを賞賛する。梨乃ちゃんは白地にピンク色の模様が入っていて、ところどころ花柄のプリントが施されたもの、比奈ちゃんは黒地に蝶の柄が入っている。少し彼女には大人っぽい気もするが、よく似合っている。聞けば、母親のお下がりだということだ。

「じゃあ、行こうか」
「はーい!」

 浴衣を着てすっかりご機嫌の比奈ちゃんが、玄関に置いてあった下駄に足を入れる。俺は財布をバックポケットに入れ、ビーチサンダルを履いて、比奈ちゃんのあとを追った。
 俺の地元駅から数駅先のその祭り会場に行くまでに、たくさんの浴衣姿の女の子がいた。拓人はいちいちそれを注意深く観察しては、浴衣は素晴らしいだのなんだのと言っていたけど、梨乃ちゃんの眉間のしわがすごいことになっているのは嫉妬ということでいいのかな、それとも。

「すごい!」
「うーわ……すごい人」

 時刻は六時半を回ったところで、まだ辺りは明るいが、祭りの提灯につられるように、ものすごい数の人がいた。
 その人ごみにげんなりした俺と梨乃ちゃんをよそに、頭の中花いっぱい組は、歓声を上げてその人ごみに突進していく。と、比奈ちゃんが慣れない浴衣や下駄のせいか足をもつれさせてつんのめった。危ない、と思った瞬間、気がついた拓人がその小さな身体を支えて助ける。俺が触るときに見せるびくついた表情がないのが、やけに癇に障った。

「先輩。眉間」
「……疲れてんのかな」
「ヤキモチでしょう」
「はあ?」
「……気付いてなかったんですか?」

 梨乃ちゃんがあきれたように目を眇める。ヤキモチ? そんなバカな。
 バカなとは思ってみるものの、拓人に妬いているのはたしかだ。ただそれが、恋からくるものなのかはいまいち判別がつかないでいる。友達としてかもしれないし、飼い猫に引っかかれた気分なのかも分からない。

「まあ、せいぜい頑張ってくださいね」
「は?」

 悪い笑みを見せた梨乃ちゃんが、拓人の腕を引っ張って人ごみの中に消えた。背の高い後姿はあっという間に見えなくなって、祭り会場の入り口には、きょとんとした顔の比奈ちゃんと、戸惑ったままの俺が残された。

「梨乃、どしたんだろう?」
「さあ……とりあえず、お祭り行こうよ」
「はい!」
「あ、待って」

 駆け出そうとした比奈ちゃんの手を、慌てて掴む。こんな人込みで比奈ちゃんに好き勝手進まれては、きっとすぐに見失ってしまう。