異国情緒と薄桃色の病
04
「オマツリ?」
「はい!」
拓人が、ぽかんとした顔で比奈ちゃんを見て首をかしげる。隣では梨乃ちゃんが求人誌を読んでくつろいでいる。タマが俺の足元に擦り寄ってきて、少し早い夕飯をねだった。
「屋台がいっぱい出て、花火が上がるですよ!」
「素晴らしい!」
「イェア!」
頭の中花いっぱい、なふたりは、お祭りお祭り、と盛り上がっている。
最近、ずっとこうだ。前はひとりで来ていたのに、最近は梨乃ちゃんと一緒にしか来なくなったし、拓人とばかり話している。俺は何かしたのだろうか。あまりにも露骨すぎて、梨乃ちゃんに疑うような視線を向けられたが、俺だって意味不明だ。……あ、まさか、またあの幼馴染たちに何か吹き込まれたとか? くそう、何にせよなんだかむかむかする。
拓人の普段の梨乃ちゃんに対する接し方と比奈ちゃんに対するそれは、全然違っていて、つまり拓人には比奈ちゃんを口説く気はまったくないのは分かるけど、イライラするのは仕方ないことだと思う。拓人と仲がいいのはともかく、なぜ俺が蔑ろにされなくてはいけないのか。
「先輩、眉間、シワ」
「いたっ」
横から、梨乃ちゃんが人差し指を伸ばしてきて、俺の眉間を躊躇も加減もなく押した。痛みに思わず声を上げると、今度は手前から伸びてきた指が梨乃ちゃんの指を払った。
「え?」
「あっ、ごめん!」
「いや……」
「か、蚊が……」
「うん」
比奈ちゃんが、梨乃ちゃんの手を払った自分に驚いて、目を真ん丸にした。なんで驚くんだ……。梨乃ちゃんは不思議そうな顔をしていたが、何か合点がいったのか、なるほど、と呟いてにやりと笑った。うわあ、本当に悪そうな顔してらあ。
「じゃあ比奈、着替えよっか」
「あ、うん!」
脇に置いてあった手提げの紙袋を取り、ふたりは洗面所に入ってドアを閉めた。これからここで浴衣に着替え、そのまま夕方からの祭りに行くのだ。ちなみに俺たちふたりは浴衣を着ない。というか、ふたりとも持っていない。
「リノの浴衣姿はきっと美しいだろうな」
「はいはい」
楽しそうな拓人を横目に、タマのご飯の準備をする。猫缶の中身を皿にあけて床に置くと、すぐさまタマがそれに口をつけた。そのままなんとなくしゃがみこんだままタマの食事を見ていると、きゃあきゃあとはしゃぎながら着替えていたふたりが洗面所のドアを開けて出てきた。