異国情緒と薄桃色の病
03

「はい。薬がなくなって」
「え、もう?」
「最近、ひとりでいることが多くて」
「そう」

 昨日寝る前に睡眠薬を飲んだら、それが最後の一錠だったことに今朝気がついた。
 夏休みということもあるのか、毎日誰かと一緒というわけにいかず、自分から連絡を取ることもできたが、なんだか気が乗らなかったせいで、ひとりで寝ることがいつもより多かったのだ。

「最近どう?」
「ぼちぼちですよ、いつもと変わりません」
「……嘘は身体によくないわよ」
「え?」
「分かりやすい子」

 何を言っているのだろう?
 特にいつもと変わらないのだが……ああ、もしかして薬の減るスピードのことを言っているのだろうか。それなら、理由は簡単だ。

「気が乗らなくて」
「あら」

 その一言ですべてを汲み取ってくれたらしい佳美さんは、それじゃあ、と言葉を繋げて笑う。

「どうして気が乗らないのかしら?」
「……」
「いいのよ、言ってごらんなさい」
「顔が……ちらついて」
「顔?」

 怪訝そうにしている佳美さんに、気が乗らないときにある女の子の顔が浮かんできて、どうせ一緒にいるならその子のほうがいいと思ってしまうということを告げると、笑われた。
 ある女の子というのは比奈ちゃんのことだが、どうしてそう思うのかは分からなかった。きっと癒されるからなんだとは思うが。

「それはあんた、恋だわ」
「恋……?」
「何よ、初めて聞いた、って顔して」
「……恋」

 恋? 俺が比奈ちゃんに、恋?
 呆然としている耳に、診察はおしまい、と声が響き、俺はふと我に返って前を向いた。佳美さんは残念そうに、けれど笑いながら、ツバメちゃんも卒業かしら、と呟く。
 なんだって、それは困る。

「じゃあ、二股をかけるのね? アタシは構わないわよ」
「二股……、でも、その子と付き合うわけじゃないし」
「伝える気もない?」
「たぶん……」
「そうかしら」
「え?」
「これ以上は内緒」

 佳美さんは、俺が二股や浮気といった単語に過剰反応することを知っている。だから、今そんなことを言ったのだと思う。
 百歩譲って比奈ちゃんのことを好きだとしても、あの子と付き合えるわけがない。それは外的な要因――つまり彼女の取り巻きとか――もあるが、俺のそもそもの性質のせいも大きい。だから、佳美さんとの関係も、他の女の子たちとの関係も、今のままでいい。
 そう思うのに少しすかっとした気持ちになるのは、やはり彼女が好きだってことなんだろうか? 認めたことで肩の荷が下りたと?
 分からない。恋とはなんだろう。