異国情緒と薄桃色の病
01

「きょわー!」 

 ウォータースライダーなんて初めてやったかも。と思いながら、手前で悲鳴を上げる比奈ちゃんを冷静に眺める。
 ドーナツをふたつくっつけたような数字の八の字型の浮き輪の穴に、俺と比奈ちゃんはそれぞれ身体を預け、緩やかなカーブや落下地点のあるコースを下っていく。

「も、もうダメだ……」

 ようやく一番下のプールにゆるく叩きつけられて、浮き輪がスピードを落として止まる。へろへろになった比奈ちゃんが、浮き輪に掴まって呟く。
 浮き輪を引っ張って比奈ちゃんをプールサイドに引き上げ、今度は流れるプールに行きたいというので、ふらふらと覚束ない足取りの彼女の手を引いて、梨乃ちゃんたちがいるはずのそっちへ向かう。
 浮き輪は係員の人に返してしまったので、梨乃ちゃんたちに合流してひとつ浮き輪をもらわねばならない。

「あ、先輩」
「浮き輪一個ちょーだい」
「ecco!」

 拓人が、自分が使っていた浮き輪を比奈ちゃんに差し出し、梨乃ちゃんがすっぽりと身体をはめている浮き輪の外側を掴んでバランスを取る。少し迷惑そうに眉を寄せた梨乃ちゃんににこりと笑い、拓人はその頬に軽くキスをした。

「何すんだボケ」
「怒っている顔も可愛いと思ってな」

 殴られたのにへらへら笑っている拓人に、もう何を言っても無駄と思ったのか、梨乃ちゃんはそのまま拓人と波に流されていった。
 隣で、比奈ちゃんが浮き輪を装備して、プールに突っ込んだ。波に逆らわず流れていく比奈ちゃんの浮き輪の紐を持って、はぐれないよう拓人のように浮き輪を掴む。と、浮き輪が波に揺られ、比奈ちゃんの頭と俺の頭が軽くぶつかった。

「っと、ごめん」
「……」
「比奈ちゃん?」
「……うわっ!」
「え」

 比奈ちゃんの顔が、さっと赤くなった。ああ、近すぎたか。それにしても、いつもなら青ざめるのに、今日は赤か。忙しい子だな。

「比奈、どうしたんですか?」
「さあ……さっきからずっとあれなんだよ」

 プールからの帰り道にあるアイスクリーム屋でアイスを買って、食べながら歩く。拓人と並んでアイスを頬張る比奈ちゃんに、梨乃ちゃんが首を傾げた。
 無理もない。さっきから、彼女は拓人とばかりいて、俺が声をかけてもむにゃむにゃと煮え切らない返事をするばかりだからだ。
 拓人と比奈ちゃんは仲がいいから、それ自体は気にならないのだが、こうも露骨に避けられるとさすがに首を捻りたくなる。

「何かしたとか」
「覚えがない……」
「無意識で、ほら、胸さわったり?」
「さわるほどないよ」
「だから気付かなかったとか」
「うーん……違うと思うんだけどなあ……」

 さり気なく比奈ちゃんに失礼な会話内容だが、実際まな板なのだからしかたあるまい。俺はもっと女の子らしいふっくらとした体型が好きなのだ。ちょっとぽっちゃりでもいい。

「ま、そのうち戻るでしょう。先輩にはびっくりするほど懐いてるし」
「そうなの?」
「まあ、他の男子と比べれば、断然」

 嬉しいようなそうでないような、ちょっと心がむずがゆい。それはたぶん、なんて言うかやっぱり一緒に過ごしていると情がわいてくる、そういった気持ちなんだと思う。