異国情緒と薄桃色の病
02

「あれ?」
「げっお前」

 佳美さんの病院へ行くと、筋肉が待合室で貧乏揺すりをしていた。夏休みとはいえ比較的すいている今の時間帯、受付のおばさんたちも暇そうにしている。俺は、顔馴染みの彼女たちに手を振ってから、はて、と思う。
 どう見ても彼は健康体だが、なんのためにここへ来ているんだろうか。そもそも、あのマンションに住む人間がここまで来るとはちょっとおかしい。特殊な科があるならともかく、ここは普通の内科だ。
 それを聞こうと口を開きかけると、診察室につながるドアが開いて比奈ちゃんが顔を出した。

「あ、比奈。先生、なんだって?」
「えーと……問題ないって」
「ほんとうか?」
「うん。でも……あれ? 先輩」
「ハロー」
「でも、何?」
「……なんでもないの」

 そうか、女医がやっている病院は少ないからな。男が苦手な彼女のために、わざわざ探したんだろうな、きっと。
 筋肉に対し言葉を濁した比奈ちゃんに問いかける。

「どっか具合悪いの?」
「へっ!? いやっ、なんでもないです!」
「そう?」

 いや、なんでもないのに病院になんて行かないだろう、普通。曖昧に隠した比奈ちゃんに、風邪か何かだろうとは思うが、それにしては筋肉が心配しすぎな気がする。いや、こいつとあの眼鏡モヤシは過保護が売りなんだったっけ。

「そういえば、比奈ちゃん最近うち来ないよね。忙しい?」
「いやっ、えと、行きたいのは山々! なんですけど梨乃が……」
「梨乃ちゃん?」
「帰るぞ比奈、そんな奴に構うな」
「あ、待ってたっくん!」

 さよなら、と口早に告げられ、俺の目の前から比奈ちゃんが慌しく去っていった。

「……?」

 最近どうも、比奈ちゃんに避けられているような気がするのだが……気のせいじゃないよな?
 誰もいなくなった待合室で少しだけぼんやりしてから、診察室に入る。

「あら尚人。来たのね」