海に恋して君に恋して
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 随分沖のほうへ行ってしまったふたりを見て、かき氷を口に運びながら、なんであたしはあの二人の仲を取り持つようなことをしているんだろう、とわりと冷静に考える。
 あんなに沖ではきっと比奈の足はついていないのだろう、先輩が楽しそうに浮き輪の紐を操って揺らしたり振ったりしていじめている。
 このイタリア男相手をしなければならないのは多少気が重いが、普段はわりと常識人だし、さすがと言うかなんと言うか話の運び方が器用で、時折挟まれる気持ち悪い口説き文句さえ無視すれば普通の会話ができる。初対面でいきなり口説かれるわ頬や手の甲にキスをされるわと散々だったので、この男への好感度はマイナスからのスタートだ。

「味が薄いな……」
「外国のお菓子に慣れてたら、日本のお菓子は味気ないかもしれないですね」
「そうなのか? これなんか、ただの氷じゃないか」
「シロップかかってるじゃないですか」
「ふうん……」

 いまいち腑に落ちない声色で氷をしゃくしゃくと食べる拓人さんは、けっこう細身に見えたのに、程よい筋肉でごつごつしていて、脱いだら骨と皮ばかりの先輩とは違い、見ていて気持ちいいくらいの健康体だ。

「おや?」
「え?」
「ヒサトたちが帰ってくる」
「え、もう?」

 海を見ると、たしかに先輩が浮き輪を引いてこちらに向かってくるところだった。水も滴るいい男。びしょびしょになったパーカーが身体にまとわりついて気持ち悪そうだ。

「おなかすいたー」
「って言うから」
「そういえば、もう昼だな」
「何食べます?」

 防水の腕時計で時間を確認した拓人さんが、何か日本らしい食べ物がいい、と言うので、とりあえず焼きそばでも食べさせることにした。
 かき氷への反応はいまいちだったが、焼きそばは気に入ったようで絶賛していた。

「Buono!」
「ぼーの?」
「美味しい、という意味だ」
「ぼーの!」

 ぼーのを連発する拓人さんと比奈の横で先輩が黙々とラーメンを食べている。あたしも焼きそばを食べながら、そのなんとも言えない珍妙な光景を眺めていた。