出会い誤解そして和解
03
内側から現れたのはよく知ったこれまた、一年生であることを示す青色の上履きを履いた少女だった。よく知ってはいるけれど、まさかこんなところにいるとは思っておらず、俺は思わず目をしばたいた。
「……尚人先輩、あんた何してるんですか」
「あれ、うそ、梨乃ちゃん? 久しぶりだね」
一年ぶり、くらいになるのだろうか。中学の後輩だった彼女、梨乃ちゃんが俺のいる高校に進んだとはまったく知らされておらず、驚いた。まあ連絡先を知っていたとは言え、ほとんど音信不通状態に等しかったので、さみしくはあるが仕方のないことではある。
「比奈から手を離してください」
「梨乃ちゃん、岡高だったんなら言ってくれればよかったのに」
「比奈から手を離しなさい!」
ひな、と言うらしい少女から、手を離す。ネコ科の小動物が威嚇するかのような可愛い迫力を持ち合わせた梨乃ちゃんの凄んだ顔に、一応、降参の体をとった。両手を軽く上げてにっこり笑うと、まだ攻撃的な態度を崩さない彼女は俺の胸板を指差した。
「この子、男の裸とかダメなんですよ。あんまりからかうと殴りますよ」
「イテッ。……暴力反対」
指差したまま、その指がどすっとみぞおちに入る。地味に痛いその攻撃に顔をしかめると、とっととボタンを留めろ、とのお達しが下った。
ボタンに手をかけたところで、ひなと呼ばれた少女が振り向いた。
「っきゃー! へんたい!」
「……俺?」
心外である。確かに、確かに屋外で行為に及びかけていたことは褒められるべきじゃない。けれど、変態というのは少し言い過ぎではなかろうか。そういうプレイの最中に涙まじりに女の子に罵られるのとはまた違った雰囲気のその言葉に、若干の不愉快な気持ちを覚える。
「て言うか、比奈に何しようとしてたんですか?」
「いや、えと」
「今度比奈にちょっかい出したら」
「あの」
「じわじわとろ火で焼きますよ」
「……」
にっこり、絶妙な角度で頬の筋肉を引き上げてきれいに笑った梨乃ちゃんが、ふらふらのひなちゃんを支えて屋上を後にした。とてもいい笑顔だったけど、切れ長の目は笑っていなかった。
俺は、ぷちぷちとボタンを留めながら、中学時代から変わらない彼女に、ひとり苦笑いを浮かべるしか出来なかった。それは、不変への安堵でもあって、記憶どおりの後輩に、あんな暴言を投げつけられても癒されていたのだ。
それはそれとして、そういう訳で中学時代から彼女の壮絶な言葉の暴力を甘受してきた俺には、恐ろしい脅し文句も鳩の鳴き声程度にしか聞こえず、そうつまり、ひなちゃんに興味が沸いていた。
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