出会い誤解そして和解
02

「よくも邪魔してくれたね」

 ビクリと肩を揺らした少女が、青い顔で俺を見た。
 そんなめちゃくちゃしたかったわけじゃないし、まあ邪魔と言えば邪魔だったけれどそこまでじゃない。ただ、勝手に誘って勝手に放置してくれたなっちゃんには、小さな憤りがある。そして本人がここにいないのだから、その鬱憤が彼女に向かっても、それは自然なことだろう。

「ねぇ」
「……」

 声をかけると、またぴくりと肩が跳ねた。その反応に、思わず唇の端が釣り上がった。
 うちの高校の青い指定ワイシャツに臙脂色をした大振りのリボンタイをつけたその少女は、小柄、の一言で片付けてしまうにはあまりに華奢で幼い。全身で動揺を表す彼女の、ぱっちりと際立つ二重の瞳だけが、ぎょろりと怖いくらいの実直さで俺を見ていた。

「こっちおいで」
「……!」

 じっとりと蒸し暑い空気に、ボタンを閉めるのが面倒になってシャツの第三ボタンまで外したままの格好でゆらりと手招きをしてみた。
 ふるふると首を横に振って、持っていた桃色の、弁当が入っていると思われる巾着をぎゅうと抱きしめる女の子。大きな、人形みたいな目にうっすら涙が溜まっていて、今にも一滴こぼれ落ちそうだ。目尻を吸って、涙を飲んでしまいたい。
 意識的に、舌でぺろりと乾いた唇を舐めた。

「来ないの?」
「……!」

 フェンスに預けていた背を浮かせると、弾かれたように、彼女が俺に背を向けてドアのノブを握るが、俺の動きのほうが一寸速かった。
 ノブにかけられた手の上から、自分のてのひらを重ねて軽く握る。枝のように細い手首だ。巾着を見ながら、栄養はちゃんと摂っているのだろうか、と自分を棚に上げて心配していると、彼女は驚いたのか怖くなったのか、微動だにせず……違った、小刻みに震えてはいるものの動き出す気配がない。
 困ったな。と、小さく思う。からかってやろうと思っただけで、そしてまああわよくばなっちゃんの代わりにしようとは思ったけれどそんな期待はほとんどしていなくて、想像以上に可愛いリアクションに鬱憤もとっくに晴れた。ここまで怖がるとは思っていなかったのだ。
 とりあえずどうにかしようと、顎に手をかけて上向けようとすると、指に生ぬるい水が伝った。
 あれ、泣いちゃったか。
 そう思ったのと、目の前のドアが内側のほうから勢いよく開いたのは、ほぼ同時だった。焦って、手中におさめた少女の身体を自分の方に引く。

「比奈……は?」