海に恋して君に恋して
07
さあ、世間の学生のほとんどは、今日から夏休みなのではないだろうか。ご多分に漏れず、俺も今日から夏休みである。
タマのフードの封を切りながら、今日の夕飯は何にしようか考えた。この暑さで料理するのは正直面倒だ。素麺でいいかな。……まずい、このままのノリが続けば、俺は夏中素麺だけを食べて生きることになってしまう、すでに先週もほとんど素麺かインスタントだったと言うのに……何がまずいんだ、別にいいじゃないか。麺食べて細々と暮らせばいいじゃないか。タマだって文句言わずに毎日同じキャットフード食べてるんだし。
「お前はえらいなぁ。ちょっとはバリエーションほしいか?」
「にゃあ」
「そっか。じゃあ今度は野菜が入ってるやつにしてあげるよ」
毎日素麺でもいいけれど、やっぱり付け合わせに野菜くらい摂らないと、栄養失調なんていう笑えないことになりそうだ。
この間比奈ちゃんの家でいただいた野菜の玉子焼きは美味しかったな、何が入ってたっけ……と考えていると、チャイムの音が鳴り響いた。
「……」
先日の一件から、チャイムが微妙に怖い。宅配便も頼まないし隣人との付き合いも浅いというかまったくないし、変な勧誘程度にしか鳴らないチャイムだが、だからこそ余計に怖いのだ。いっそ頻繁に鳴ってくれればいいのに、とも思う。
「どなた」
「……」
ドアの向こうにいるであろう人間に呼びかけた。が、返事はない。イタズラかと思いドアを開ける。
「……誰」
「ここは、キリュウヒサトの家で合っているのか?」
「桐生尚人は俺だけど……」
目の前にいたのは、どう見ても新聞の勧誘でも壷の販売でも宅配のお兄ちゃんでもなさそうな、背の高い外国人。抜けるような白い肌に、沖縄の海のような青い瞳が、茶色の長いまつげに縁取られている。短く切りそろえられたオリーブ色の髪の毛はくしゃくしゃと跳ね、同じ色をした凛々しい眉が男らしさを強調している。
普通に、男前だと思う。多少無骨な感じもするが、それがマイナスになっているということはない。しかし、いくら男前だからと言って、怪しくなくなるかというと否だ。めちゃめちゃ怪しい。変に流暢だが、イントネーションがおかしいし微妙に発音もできていない。怪しい。
「君が、ヒサト?」
外国人が、目を見開いて首を傾げた。傾げたいのはこちらのほうなんだが。
「あんた誰」
「……俺が、分からないか?」
「まったく」
吐き捨ててやる。
初対面でいきなりそんなことを言ってくるとは呆れる。それにしても、どうして俺のことを向こうは知ってるんだ?
軽くにらみつけると、目の前の男はやれやれといった風に首を振り、小さく何か呟いた。
「え?」
「ヤナギ、タクト。本当に覚えていないのか」
「……たくと……?」