海に恋して君に恋して
05

 比奈ちゃんの話によると、あの面倒そうな幼馴染たちは、とても過保護なのだそうだ。海はナンパ目的の男がたくさんいるから駄目、プールは以下同文、お祭も以下同文、それにプラスして夜道は危ないから駄目。
 その他もろもろ、夏の行事全てに難癖をつけては駄目の一点張りなのだそうだ。

「危ないんだったら高士たちと一緒に行けばいいんじゃないの」
「でもねーなんかねー、駄目なんだって」
「ふーん……よく分かんないね」
「……まあ、何にせよ、海でもどこでも、付き合うよ」
「ほんとー!」

 きらきらと比奈ちゃんの目が輝いて、この暑いのにるんるんでスキップしながらターン、ターン、おまけにもう一度ターン。元気だな。
 きゃっきゃとはしゃいでいる比奈ちゃんを微笑ましく見守っていると、いつの間にか彼女の住むマンションの近くまで来ていた。

「あっ、そーだ! 今日おうち来て遊ぼうよ!」

 見えてきたマンションのエントランスを指差し、比奈ちゃんが期待に満ちた大きな目で俺を見てくる。ちらりと梨乃ちゃんを見ると、彼女もこちらを見ていて、目が「まあいいんじゃない」と言っていた。

「じゃあ、お邪魔しようかな」
「あたしもー」

 ……そういえば、大体の高校が夏休み間近で午前授業になっていると思うけど、あの幼馴染たちもいるのかな。いたら嫌だな。あ、おなかすいた。

「あらあらあら。ちょうどお素麺茹でたところなのよ、食べていってよ」
「えー、いいんですか」
「いいのよー。どうせたっくんたちもうちで食べるんだし、ふたりくらい増えても同じよ」

 やっぱり比奈ちゃんにそっくりなおばさんが、人の良さそうな笑みを浮かべてガラスの器を手にする。その手前では、すでに茹で上がって涼しげに盛り付けられた素麺に食いつく例の二人組がいた。そして、俺を見て同時にすごく嫌そうに顔をしかめる。

「お前、性懲りもなくまた来やがったな……」
「おばさん、塩」
「おう、塩だ塩。ナメクジ並みに溶けて消えろ」
「やぁね、喧嘩しないでちょうだいよ。桐生君だって比奈の大事なお友達でしょう」
「そうだよー。先輩超いい人だし」
「比奈は騙されている!」

 馬鹿みたいな金の髪をした方が、俺に向かってがなりたてる。前は気がつかなかったが、かなり筋肉質で全身がそれで覆われているのでは、というくらいに見事な身体つきをしている。名前、分からないし、筋肉と呼ぶことにしよう。

「はーい、出来たわよ。たくさん食べてね」

 筋肉が今にも席を立ちそうになった瞬間、緩衝材のような声とともに、テーブルにガラスボウルがどんと置かれる。