海に恋して君に恋して
04

「うまー冷たー」
「あー……癒される」

 両隣から、でろでろに溶けた声があとからあとから漏れる。
 先輩は、暑さにとても弱い。吸血鬼も真っ青の白い肌は、確かに焼けると赤く水脹れになってしまうし、どこからどう見ても「夏男」という単語とは縁がない。……かと言って冬が似合うわけでもないのだが。なんというか、生物感がないのだ。
 それから比奈も、意外と日差しに弱い。たぶん、話を聞く限り夏は好きなのだと思う。ただ致命的なのが、体力がないということなのだ。
 そしてそんな二人に挟まれたあたしは、夏が大好きである。

「ねえ比奈、夏休みになったらプール行こうよ」
「プール」

 何気なく誘うと、歯切れの悪い返事が返ってくる。変だな、比奈なら二つ返事で頷きそうだと思ったのだが。

「比奈水着持ってない……」
「プール行ったことないの?」
「ない……」
「海は?」
「……」

 スイカバーを持った右手がぷるぷると震え、比奈は悔しそうに頬を膨らませる。
 今時遊びでプールにも海にも行ったことのない高校生がいるなんて、と言うのは偏見か、でも、行きたくないならともかく行きたいのに行ったことのない高校生は珍しいのではないか。

「なんで?」
「だって……たっくんたちがだめって言う」
「ああ、そこか」

 溶けかけて垂れそうになっているスイカバーを慌てて頬張りながら、比奈はもごもごと言葉を続けた。ふにゃふにゃと、何か言っているのは分かるのだが、残念ながら理解が出来ない。口に物を含んだ状態で喋ってはいけません、と教育されなかったのだろうか。

「……でも今年は先輩がいるもん!」
「……ん?」

 今まで、おそらくあたしたちの会話の内容の半分も聞いていないでぼーっとしていた先輩が、とっくに食べ終えたアイスの棒を口に咥えたまま眉を上げた。
 ちゅるりと最後の一欠けを口に入れてしまい、比奈がにこりと満面の笑みを向けた。

「ね!」
「あ、うん。何が」
「だからー、先輩がいるから海とかプールとかお祭とか花火」
「ストップ」
「なんで先輩なの」
「もー。話ちゃんと聞いててよー」

 勝手にぷりぷりと怒ってくれているが、お行儀が悪かったのは間違いなく比奈だ。