同情するなら金をくれ
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 駆け寄った比奈が、突然のちびっこの登場にやや驚いたような顔をした男の腕をぽこぽこ叩いて、先輩から引っぺがそうと踏ん張る。
 驚きに手の力が緩んだのか、比奈が男の腕を引っ張ると、それは案外簡単に先輩の首を解放した。

「カハッ……ぅ……」
「先輩……!」

 首を押さえて呻きながら上体を起こした先輩に、慌てて走り寄ってその身体を支える。

「なんだ君たちは……こんな男の部屋で何を……恥を知れ!」
「うっせーですよハゲオヤジ!」
「な……!」
「比奈ちゃん」

 あんまりな言い様に、先輩は自分が首を絞められたことも忘れて比奈を諌める。あたしは、先輩の肩をがつんと押して、彼を吹っ飛ばして下がらせた。

「……うるせーんだよクソオヤジ……」
「は……?」
「梨乃! もっと言ってしまえ!」
「比奈はともかくあたしを先輩とくっつけて変に勘繰ってんじゃねーよ! 虫唾が走るわボケ!」
「怒るとこ、そこ!?」

 しかもなんで比奈ちゃんはオッケーなんだよ!
 突っ込むとこ、そこ!? と聞き返したくなるようなツッコミを入れた先輩は無視だ。こんな甲斐性なしのヤリチンとの仲を誤解されるなんてとても心外だ。とてもとても心外だ。

「今度そんな目であたしを見やがったらぶん殴るぞ!」

 げしっと蹴りを入れ、がちゃっとドアを開け男をぐいぐい押しやる。

「はー……」

 男を部屋の外に追いやり、ドアを閉め鍵をかける。と、急に我に返って、本当によかったのだろうか、と今さらながら思うが行動に取り消しはきかない。あまりの侮辱に思わずプッチリ切れてしまったが、よく考えるとどこの誰かも知らないのに非常に失礼なことをしてしまった。
 後悔はしていないが、なんだかばつが悪くなり先輩のほうを見ると、座り込んだままの彼は困ったように小さく笑った。