OMAKE
柳彩奈の憂鬱
印象。綺麗、美しい、とっつきにくそう、冷たそう。
「あーあ」
「ん? どしたの彩ちゃん」
「なんであたし、ママみたいな感じに生まれてこなかったんだろ」
「う?」
不思議そうな顔をして、あたしを見つめるママは、可愛い。ティーカップを口元に持ってきたまま、ママは動きを止めた。
なんかさ、小動物っぽくて、もういい年したおばさんなはずなのにあたしよりあたしの高校の制服似合ってるし。パパがベタ惚れなのもしょうがないと思う。
あたし別に、パパ似で生まれてきたことを憎んでなんかいないのよ。ただ、もうちょっと可愛らしさっていうか、そういうのも欲しかったなーって。
「彩ちゃん、紅茶冷めちゃうよ?」
「あ、うん」
まぐまぐとスコーンを食べているママに促されて、カップに口をつける。美味しい。
「彩ちゃんはー」
「ん?」
「さっちゃんに似てるのいや?」
「んー……いやなわけじゃないよ」
うん。だって美人っていうのは何かとお得なこともあるし、まあ損なこともあるけど……なんて言うかな、うーん、せめて中身とのバランス取りたかったっていうかー。
「パパってさ、けっこうのんきな性格じゃん」
「うんー……そうなの?」
「そうだよー。なんていうかー、たとえば衝撃的事実が明らかになったとしても、『ふぅん』で終わりそうだし、通帳と印鑑なくしても『あれぇ』って言って大して探そうともしなさそうだし」
「……彩ちゃん……さっちゃんだって、通帳と印鑑なくしたら、あれぇって言ってがんばって探すよ!」
「あれぇは言うんだ」
「言うと思うー」
のんびり語尾を伸ばし、ママはべたべたする、と口の周りをタオルで拭いた。
「でもさー、あたしは見かけはこんな美人なのにさ」
「うん」
「性格がなんかおかしいことに気づいてきたっていうかさ」
「うん?」
「とにかく、ママほどではないけど、世間ずれしてないっていうかさ」
「えー」
ママが、不服そうに唇を尖らせる。すぼんだほっぺたをぱしっと両手で挟んでみると、くすぐったそうにママが笑ってその華奢な手であたしの腕を掴んだ。ちっ、いちいち可愛いぜ。
「なんか、小さい頃から世界がほかの皆と違ったっていうかさ」
「皆って、クラスの皆?」
「うん、そ。同年代の子どもたちね。なんか特殊な環境だったじゃん。モデルのパパとか、隼人とかいてさあ」
「そういえば、そうかなー」
「だから、なんか、変人認定されてるって言うかー」
「ほむほむー」
「ただいまー」
「あっ、お帰りなさい!」
「あ、ちょっとママ、話終わって、な、……」
とたとたと玄関のほうに行ってしまったママの背中を眺めながら、あたしはふと思った。
もしかしてあたしの変人度合いはママ譲り?
後日。
「ああ、そうだな。彩奈は叔母さんに性格がそっくりだ。人の話を聞かないところと、暴走機関車になるところと、天然で変なところ」
「隼人、殴るよ」
「いてっ!」
20110703