OMAKE
弁当事変

「あれ? 真中先輩?」
「……なんだ、チビか」

 尚人先輩との秘密の場所、数学準備室。今日はあいにくの雨で、外でランチができないから、準備室に来た。そしたら、お先さんがいた。
 真中先輩は、だるそうに壁に寄りかかって座り込み、携帯をいじってた。

「尚人なら今日いないぞ」
「ええっ」
「あー、二限目から俺サボってるから、その間に来てるかもしんねぇ。でも、尚人だし、サボりじゃね?」
「せっかくお弁当つくってきたのに!」
「俺に言われてもな」

 せっかく今日はダシ巻き卵が上手にできたのに!
 先輩の携帯に電話をかけてみる。六回コールして、ぶつっとコール音が切断された。

『……もしもし』
「あっ、先輩、今どこですか?」
『家』
「えーっ!」
『あー、大きな声出さないで』
「え?」
『昨日拓人に付き合わされて散々な思いしたの』
「どゆ意味?」
『……まあ、平たく言うと、お酒を飲みました。二日酔い』
「駄目じゃん! 先輩お酒なんか飲んだら駄目じゃん!」
『大きな声出さないで……』
「せっかくお弁当つくってきたのに!」
『ごめん……』
「いい、俺が食う」
「はへ?」
『あゆむ?』

 携帯を取り上げられて、真中先輩と尚人先輩が話しはじめた。通話を切ったのか、携帯を返してもらって、代わりに先輩のお弁当を取られた。

「何するですか!」
「今日ひよ、休みなんだよ」
「だったら購買行けばいいですよ! これは尚人先輩のご飯!」
「せっかくつくってくれたのに食べないのは申し訳ないからって、俺が食うことになったんだよ」
「むー……」

 ぱかっと真中先輩が弁当箱のフタを開けて、眉を寄せた。

「お前さ、こんなん毎日尚人に食わしてるわけ?」
「えっ? 比奈お料理上手ですよ?」
「そういう意味じゃねーよ」
「んんん?」
「……まあ、ひよも似たようなもんつくってるか……」

 がつがつ食べはじめた先輩に首をかしげながらも、あたしも座り込んでお弁当を広げる。それをひょいと覗き込んだ先輩が、顔をしかめた。

「普通じゃねーか」
「なんですか?」
「なんでハート型の白飯食わなきゃいけねーんだよ、俺が」
「だって尚人先輩につくったんだもん」
「だいたい、こんな量で足りるわけねーだろーが」
「だって尚人先輩につくったんだもーん」
「そうかよ……」

 真中先輩がため息をついた。何に対してのため息かは分からなかったので、あたしは首をかしげて自分のご飯を食べることにした。


20110218