心臓に誓って愛を食う
06

「駄目ですー。比奈の要望により、事前のいちゃいちゃは認めません」
「えー!?」

 比奈の控え室に、ウェディングドレス姿を見に行こうとしたら、梨乃ちゃんにドア前で止められた。
 理不尽だ。自分はしっかり拓人と事前イチャコラしていたくせに。

「比奈ー駄目なのー?」

 ドアの前でそう叫ぶと、がちゃっとドアが少しだけ開いて、きらきらと光るヴェールをかぶった比奈が顔だけ出して、ふるふると首を振って駄目、と一言囁いてドアを閉めた。
 なんてこった。

「結婚式まで見れないってことなの!?」
「恥ずかしいらしいですよ」
「気持ちは分かるけど……えー……理不尽……」
「まあ、本番で見たほうがインパクトがあるだろう」
「拓人はさー、梨乃ちゃんとしっかりいちゃいちゃしたからそんなこと言えるんだよ……」
「ハハハ、本番の楽しみに取っておけ」
「チッ」

 そして本番。
 お兄さんにエスコートされながらヴァージンロードを歩きこちらに向かってくる比奈は、超絶可愛かった。ふんだんにあしらわれたレースとフリルが、比奈の愛らしさを強調していて、俯き加減のすでに赤くなった頬が可愛らしい。
 そんな比奈が俺の前に来て、俺はらしくもなく緊張していた。こんなに可愛い比奈がとなりにいるのに抱きしめられない。うずうずする。
 神父の言葉に、俺は力強く頷く。

「誓います」

 比奈を幸せにすると、誓う。絶対に泣かせたりしない。いつも花のように笑っていてほしい。
 ふととなりを見ると、比奈の目がきらきらと涙で光っていた。いつ雫が流れ落ちても不思議ではないくらいに涙をこんもりと盛った瞳は、きれいだった。
 指輪の交換のときにも、涙は今にもこぼれ落ちそうで、俺は少し慌てた。

「では、誓いの口づけを」

 俺はかがみ込んで、そっと比奈のヴェールをめくる。今にも泣きそうな比奈の涙をジャケットの裾で拭ってやって、そっと唇を奪った。
 長いキスだった。比奈の両頬を包んでキスしていると、俺の手に生ぬるい涙が伝った。俺は唇を離して、泣いている比奈にそっと笑った。すると、比奈も泣き笑いの表情をしている。
 客席から、嗚咽が聞こえる。見回すと、お兄さんが男泣きに泣いているのを亜美さんが慰めていた。
 父さんとルカも出席していた。配慮して、席は遠ざけたけれど、ふたりの父親が俺を祝福してくれた、それだけでじゅうぶんだった。
 幸せだ。やっと見つけた、幸せのかたち。二度と離さない。