心臓に誓って愛を食う
02

「うわっ」
「きゃあ!」

 ヒサトに押され、リノの控え室に心の準備が済んでいないのに突っ込んでしまった。よろけながら前を見ると、そこには俺の天使がいた。俺は思わず囁く。

「……きれいだ」
「……あ、ありがとう」

 ため息をつきたくなるくらいに美しい。芸術品のようだ。ヴェールでうっすら隠された顔が、照れたようにはにかむ。
 近づいて、そっとヴェールを取り払う。

「ちょっと、駄目よ」
「さすが俺の奥さんだ。誰より美しいよ、リノ。宝石のようだ」
「……」

 うろうろと視線を惑わせて、リノが俯いた。その額にそっとキスをする。唇へのキスは、誓いのキスまでお預けだ。

「もう!」
「そろそろ式がはじまるな」
「出て行って!」
「分かったよ」

 両手を上げて、もう一度額に唇を押し付けて、俺は控え室を出た。
 あんなに美しい人を細君に迎えられる俺は、なんて果報者なんだろうか。足取りは軽い。
 廊下を歩きながら、俺は鼻歌をうたっている自分に気づき、浮かれすぎだと自身を制することとなった。