心臓に誓って愛を食う
01

 あなたの分まで幸せに生きるだとか、そういう馬鹿みたいなことは言わないけれど。
 前に拓人が言っていた。「もう彼女は死んでいるんだ」と。その通りだっていうことを認めなくちゃいけないんだ。
 残された俺は、残された俺なりに生きてみようと思っている。

「わあ、きれい……」
「ありがと」

 そっけなく笑った梨乃ちゃんが着ているウェディングドレスは、レースも最小限に抑えたシンプルなもので、ラメが入っているヴェールがものすごく長い。赤い口紅を引いた唇が、笑みのかたちに彩られる。
 比奈と梨乃ちゃんのツーショットをデジカメにおさめ、俺たちは梨乃ちゃんの控え室をあとにした。
 今日の比奈は、ピンク色のフリルがたっぷり使われた可愛いミニ丈のドレスを着ている。亜美さんのお見立てだ。俺もきっちり、少し洒落たスーツを着ている。
 廊下に出ると、銀色の燕尾服を着た拓人が落ち着きがなさそうに控え室の付近をうろうろしていた。

「何してんの?」
「いや、実は……」
「梨乃すごくきれいだったですよ!」
「当たり前だろう、リノは何を着たって美しいんだ」
「ちゃっちゃと入っちゃえばいいじゃん」
「駄目だ、結婚式の前に花嫁のドレス姿を見るのはご法度なんだ」
「もー、めんどくさいな」

 がちゃんとドアを開けて、拓人を控え室に突っ込む。そして、比奈と手をつないで教会の庭に出る。式がはじまるまで、まだ少し時間がある。

「学生結婚かあ。あのふたり、やることなすことめちゃくちゃだよね」
「でも、憧れですよ」
「比奈も学生結婚したい?」
「んー……」

 比奈が、自分の左手薬指を見る。そこには、先日買いに行った婚約指輪のダイヤがきらきらと輝いている。俺の薬指にも、ダイヤはついていないが同じデザインの指輪がはまっている。

「比奈は、卒業してからでいいです」
「そう?」
「あい」

 こっくり頷いた比奈が、腕時計に目をやる。のぞき込むと、そろそろ式がはじまる時間だった。
 チャペルのほうに向かいながら、俺たちは他愛もない話をする。チャペルの前で、出席簿に記帳して、チャペルに入る。けっこう本格的な礼拝堂だ。

「あ、はやたん」
「ああ」

 梨乃ちゃんのお母さんが、隼人くんを抱えて椅子に座っている。途中で泣き出したりしないか梨乃ちゃんは心配していたけど、身内だけの式なので、そんなに気にすることはないと思う。
 俺たちも所定の椅子につき、式がはじまるのを待った。