こんにちはバンビーノ
10

 今日も、比奈は俺の撮影にちょこちょこと着いてきた。今日は屋外での撮影だ。久しぶりの横浜に、俺も比奈もテンションが上がっていた。しかも、撮影場所は俺たちに縁深いみなとみらい。学生時代は休日になると大抵みなとみらいに繰り出したものだ。

「はい、こっち向いてー」

 今回は、来年のカレンダーの撮影だ。赤レンガ倉庫の前で、ポーズを決める。衣装は、少し肌寒くなってきたこの頃には少し暑い、冬装備だ。一月二月の分を撮っている。
 カメラを向けられてそれに流し目を送り、立ったり座ったり、ポージングをいろいろ変えてみる。
 休憩時間になって、俺はコートを脱いだ。暑い、こういうとき、モデルって厄介だな、と思う。

「お疲れさまです!」

 比奈が、缶コーヒーを持ってとたとたと駆けてくる。それを受け取って、ありがとうと呟いて頬にキスをすると、すぐに顔が赤くなる。

「ひ、ひひ人前ですよ!」
「いいんだよ」
「いくないですよ!」
「あはは」

 熱い缶コーヒーをしばらく手のひらでもてあそんで、冷ます。比奈の肩を抱いて、もちろん比奈はものすごい抵抗をしたが、俺の力には到底敵わないでパイプ椅子に座る。比奈は自分用にホットレモンティーのミニボトルを持っていて、こくこくと飲みはじめた。俺も、缶を開けて一口すする。まだ熱い。

「懐かしいですねー」
「うん。よく遊びに来てたよね」
「ここでさっちゃんスカウトされたですよね」
「あ、そうか。……そういえば、足立さんに会ったよ」
「そうなんですか?」
「うん。去年だけど、インタビューのとき」
「ふーん」

 比奈はあまり興味がなさそうにレモンティーを飲んでいる。
 俺も、開けたら一気に冷めてしまったコーヒーを飲む。そして、辺りを見回す。見物人がたくさんいる。俺も、昔はあっち側にいたんだよな。妙な感慨を覚えて、俺はふうとため息をついた。

「尚人、休憩終わり」
「ん、はい。じゃ、比奈、いい子にしててね」
「むっ、比奈はいつもいい子ですよ!」
「そうだね」

 上着を着て、再びカメラの前に立つ。汗腺を必死になだめて、汗をかかないように注意する。
 ふと比奈のほうを見ると、メイクさんと楽しげに何か話している。ふ、と微笑ましくなって笑うと、カメラマンに注意された。俺は笑ってはいけないのか。

「笑っちゃ駄目ですか」
「今はね」
「今は?」
「そのうち、だよ」
「はあ」

 すっとぼけたような顔を写真におさめられ、顔を引き締める。
 もうすぐ秋がやってくる。母さんの墓参りも、もうすぐだ。イタリアに行っていていけなかった三年間を埋めるように、去年は比奈とふたりで訪れて、長いことそこにいた。
 母さん、ごめんね。俺は今、とても幸せだよ。
 ざあっと、秋色の風が吹いて俺の髪の毛を揺らした。

 ◆◆◆