こんにちはバンビーノ
07

「わぷ」
「髪の毛乾かさないと」

 びしょびしょの比奈の髪の毛を見かねて、タオルをかぶせてわしゃわしゃと水分を拭き取る。比奈はされるがままに頭を揺らしていて、機嫌がよさそうだ。

「何かいいことあったの?」
「きららが、先輩のことかっこいいなーって言ってた!」
「きらら……誰?」
「比奈のお友達です!」
「へぇ。変わった名前だね」
「そうですか?」

 比奈が俺のほうを上目遣いに振り返った。きょろっとした黒目がちな瞳が可愛くて、俺はタオルをぽいっと放り、比奈を後ろから抱きすくめた。

「わっ」
「今日、なんかテレビあったっけ」
「今日はー……何もないですよ」
「そっか。ドライヤー持ってくるね。ソファで待ってて」
「あい」

 ドライヤーを洗面所から持ってきて、ソファのそばに伸びているタコ足にプラグをはめて、比奈を俺の足の間に座らせて、スイッチを入れる。

「ひゃー!」

 比奈のアッシュゴールドの髪の毛が勢いよく舞う。きらきら輝いてきれいだ。だから俺は比奈にドライヤーをかけてやるのが好きだ。比奈はドライヤーがあんまり好きじゃないみたいだけど。
 まんべんなく風を当てて乾かして、スイッチを切る。比奈がこちらを向いて、唇を尖らせた。

「ドライヤーきらい」
「そう?」

 まるでキスをねだってるかのようなその尖らせた唇に、ぷちゅっと自分の唇を軽く重ねてみる。比奈はまたたく間に顔を赤くして、俺の胸をぽこぽこ叩いた。

「破廉恥!」
「なんでよ、キスくらいで」
「むむっ」

 ぷくっと頬を膨らませて、比奈がするりと俺の足の間からすり抜けて、キッチンのほうへ行ってしまった。
 追いかけてキッチンに向かうと、比奈が、俺が今日買ってきたケーキを食べていた。帰り道に美味しそうなケーキ屋さんがあったので、比奈が喜ぶだろうと四つ買ってきたのだ。
 これでもう三つ目だ。ふたつはおやつとして消えた。

「もう夜だよ」
「でも、食べたかったんだもーん」

 モンブランを崩しながら、比奈がもごもごと言い訳する。まあ、いいか。どうせ太らないんだろうし、太ってちょうどいいくらいだし。

「おーいしーい!」

 どうやら気に入ってもらえたようなので、今後あそこを通る機会があれば、また買ってこよう。