こんにちはバンビーノ
06

 退院して、隼人を実家に預けに行く途中、拓人さんの運転は、いつもと違ってとても丁寧だった。

「どうしたの?」
「隼人が乗っているのに、荒い運転はできないだろう」
「……浮気もタバコもやめて、運転も安全になって……そんなに赤ちゃんが好き?」
「ああ、大好きだよ。リノと同じくらい愛してる」
「あ、そう……」

 聞いておいて、照れくさい答えが返ってくると、あたしは何も言えなくなる。俯いて、かごに横たわらせた隼人の手を握る。法定速度を守って、拓人さんの車は進む。
 実家に着いて、あたしはスーツケースを下ろした。隼人のかごは拓人さんが下ろしてくれた。

「ただいま」
「お帰りなさい」

 お母さんがにこやかに迎えてくれる。リビングに入ると、お父さんは渋い顔をしていた。結婚を許してはくれたものの、まだ拓人さんを完全には信用してはいないようだ。

「ほら、おじいちゃんですよー」
「隼人」

 お父さんに、隼人を抱かせてあげる。おとなしく揺られている隼人を見て、拓人がぼやいた。

「どうして俺が抱くと泣くんだろうな」
「さあ……」

 首を傾げて、少し笑う。隼人は、面白いくらい拓人さんに懐かない。

「梨乃が使ってたベッド、まだ取ってあるのよ」
「ほんとう?」
「奥の部屋に出しておいたから、見ておいで」

 奥の畳の部屋に行くと、年季の入ったベビーベッドが置いてあった。お父さんがあとから入ってきて、隼人をそこに寝かした。天井からぶら下げるくるくる回るおもちゃも健在だ。

「あ、笑った?」
「くるくるが好きなのかしら」

 拓人さんと、ベッドの中の小さな命を、微笑ましい気持ちで見る。それは、ずっと見ていたいような、触れたいような、不思議な心地のする温度だった。