こんにちはバンビーノ
02

「比奈、おやすみ」
「んー……」
「どうしたの?」
「……なんでもない」
「なんでもないことないでしょ」

 寝ていた身体を起こして、肘をついて比奈を見下ろす。比奈は、間接照明に照らされて、もじもじしている。

「どうしたの?」
「……その、あの、……恥ずかしい子だって思わないでくださいね?」
「思わないよ」

 もじもじしていた比奈が、意を決したように小さな声で呟いた。

「えっちしたい……」
「……」

 言うのには、だいぶ勇気を要しただろう。比奈はとんでもなくソッチ方面には疎いし、恥ずかしがりやだから。
でも、応えてあげられない。そんな自分が憎い。

「……ごめん。比奈だけ気持ちよくしてあげるっていうのは駄目かな」
「さっちゃんも、気持ちよくなってほしいの!」
「……ごめん」
「謝んないで!」

 比奈が目に涙を溜めて鋭く叫ぶ。痛々しい。ごめん、としか言えない自分に吐き気がする。比奈の気持ちは痛いほど分かる。でも、応えてあげられない。

「……赤ちゃん、比奈も欲しい」
「……」
「さっちゃんは、欲しくない?」
「……分からない。ごめん」

 分からない、なんて嘘だ。欲しくない。比奈と愛し合った結果の命は尊いけれど、責任、愛情、さまざまな言葉が頭の中を飛び交っては消えていく。
 比奈に、欲しくない、なんて言えない。悲しがるだろうから。
 ただ単純に欲しくないわけじゃない。梨乃ちゃんと拓人を見ていると、欲しいな、と思うこともあるけど、そんな無責任に欲しがってはいけない存在なのだ、赤ん坊というのは。俺に責任をしょいきれるのか、ちゃんと愛情を注いで育てていけるのか、愛情って、なんなのか、分からないから。
 比奈に対する愛情とはまた別のものなんだってことくらいは分かる。だからこそ、分からない。

「……ごめん」
「謝んないで……」

 比奈がしゃくり上げた。比奈を抱きしめて、横になる。
 ごめんね、ごめん。俺には分からないんだ。