同情するなら金をくれ
07

 先ほどようやく解放され、こうして今屋上まで足を運んだわけだが、別に一緒に食べる約束をしているわけではないので、そこにいた後輩ふたりは、弁当を食べていて、梨乃ちゃんはすでに食べ終わったようだ。比奈ちゃんは、まだ半分ほどしか減っていない弁当をもごもごと消化していた。
 屋上は、半分あゆむのテリトリーと化しているせいか、あまり人が寄り付かない。外見も背の高い派手な金髪で鋭い目つきをしている彼に、わざわざ因縁をふっかけられに屋上に来るような馬鹿はあまりいないようだ。先日、あゆむのお気に入りの場所だと知らない一年生がやってきて、恋人と大変仲睦まじく昼食をとっていたあゆむに思い切り睨まれる、という事件が発生してからは、ますます過疎の一途を辿っている。
 二年の真中先輩超怖いんだけど、という噂に尾ひれがついた結果だ。
 別に、俺や彼女たちが遠慮する理由にはひとつもならないから、こうして貸切状態になっているわけである。

「三者面談のことでちょっとね……」
「……先輩、中学の時もそれでいつも揉めてませんでした?」
「ああ、まあ。親と仲良くないからさ」

 仲が悪い、という言葉では済まされない環境だが、人に言うことではないし、まして言いたいとも思わないのでそうやって濁す。
 もう、五年間会っていない親の姿をぼんやりと思い浮かべ、俺はひとり溜めていた息を吐き出した。

「そういえば、比奈、この間休んだ分のノート、ほしいって言ってなかった?」
「あっ、それもういいの! 先生に聞いたら分かったから!」
「ああ、さすが」

 梨乃ちゃんの隣に腰を降ろし、しばらく他愛ない話をしていると、彼女が思い出したように、比奈ちゃんにそう聞く。この間休んだ、というのは、あの雨の日の翌日のことだろう、俺は学校に来ない日も多いけど、彼女はそうではないから。
 そして、さすが、というその言葉に少し違和感を覚える。

「なにがさすがなの?」
「え、何って……知能指数?」
「んっ?」
「比奈、勉強に関してはものすごく頭の回転が速いから」
「ふうん」

 まあ、公立では全国トップクラスと言われるうちの理数科に在籍している以上、人より頭がいいことは分かっていたけれど、こうして言葉にされると、なんだか俄かには信じがたい話だ。
 頭上を通ったアゲハチョウに目を奪われ、完全にお箸を動かす手がお留守になっている、頭に花が咲いているような思考回路の彼女が、頭脳明晰だとは、浅岡高校の七不思議に追加してもいい。そんなものがあるという話は聞いたことがないが。

「こないだの模試でも、T大余裕で合格できる結果だったし」
「マジか」
「マジだ」
「……逃げられた……」
「……マジか?」
「……マジなんだ、これが」

 世の中、何があるか分からない。