同情するなら金をくれ
06
「──というわけでtanθはこのようなグラフをとり……」
数学の先生の、数字がひとつも出てこない講義を、ちくわのように右から左まで貫通した穴の通ったようになっている耳が、脳に意味が届く前に『不要』の判子を押して処理していく。
そして、もう夏だというのに新品さながらの教科書の陰で、大きなあくびを噛み殺す。眠いのだ、慣れない子育てならぬ猫育てをしているものだから。
たぶん猫というものは、そこまで手を焼いてやらなくても、甘えん坊な子猫の時期を過ぎれば勝手に夜出歩いたり、食事と寝床さえあれば立派に生きていく生き物なのだとは思う。むしろ人の干渉を嫌うんじゃないかとも思う。
ただ、どうしても、自分のそばに置かれた小さな体温が気になって気になって仕方がないのだ。平気な顔をしているようで、内面では泣きたいくらいに寂しい思いをしていたらと、不安になる。
「えー、じゃあ、今日の授業内容までが試験範囲となるから、各自復習をしっかりしておくように」
そう、試験範囲となるから、各自復習をしっかりしておくように、キャットフードの値段も馬鹿にならないのだ。
え?
「次回は、テスト対策のプリント配って自習時間にするからな」
教科書に隠れて、携帯を開く。表示されている七月五日(金)の日付に、そうかそんな時期なのかと今さらながら理解した。
「あ、尚人先ぱーい」
「……やあ」
「ん? 元気ないですね」
「そう見える?」
「どうかしたですか?」
昼休み、授業の終了とともに俺のクラスに現れた数少ない友人のひとり、真中あゆむ――彼こそが、屋上を我が物として、その横暴さゆえ周囲から腫れ物扱いを受けている問題児である――が、恋人をどこかへ連行して行った。きっと今頃ふたりで、どこかの空き教室で水入らずのイチャイチャランチタイムなのだろう。
そして俺はと言えば、もはや恒例となった呼び出しを受けていた。
「ちょっと職員室に呼ばれて……」
「怒られたですか?」