契り千切って元どおり
01

「あ、尚人くぅん」
「……ああ、玲央奈さん」

 ことさら冷たい視線を向けると、少しひるんだが、玲央奈さんは果敢に俺に話しかけてきた。

「この前のスキャンダルはごめんね? わたし、尚人くんのこと、好きなんだ、それでつい……」
「俺は好きじゃないんで。ついでに、恋人もいるんで、迷惑です」
「ご、ごめん、でもさ、わたしとスキャンダル起こしたおかげで、売名もできたし、悪いことばっかりじゃなかったでしょ?」
「……これ以上仕事が増えて比奈と会えなくなるなんて冗談じゃない」
「そ、そう」
「成沢さんをけしかけたのもあなたでしょう?」
「何のこと……?」

 すっとぼけた表情で、玲央奈さんが空々しく笑う。俺は、もうそれ以上言及することもなく、玲央奈さんの横を通り抜けた。彼女に関しては今拓人がひとつずつ丁寧に仕事を潰してくれているので、もうこれ以上話すことはない。

「待ってよ!」
「……なんですか」

 呼び止められて、しょうがなく立ち止まって振り返る。

「わたしと付き合って」
「嫌です」
「どうして? あんなちんちくりんのどこがいいわけ?」

 何か、頭の中でふつっと切れる音がした。

「俺の宝物にケチをつけないでください」
「た、宝物って……」

 顔色が悪い玲央奈さんはもう放っておいて、俺はスタジオに急いだ。十二月。毎日寒い日が続いて、昨日から比奈が風邪でダウンしてしまった。心配だから、ちゃっちゃと仕事を終わらせて帰りたい。幸い、今日は写真集の告知をする雑誌インタビューとそのインタビューのための撮影しかない。ぱっぱと終わらせて帰らなくちゃ。比奈が不安がる。

「あ、尚人くん」
「お久しぶりです」

 俺の前に立った女性、それは足立さんだった。高校時代ぶりだ。

「まったく、わたしのこと放ってイタリアなんか行って、ビッグになって帰ってきちゃって。身体もちゃんとつくってるんだね、えらいえらい」
「すみません、一身上の都合で」
「いいのいいの、わたしの目は間違ってなかったってことが証明されたしね」
「はあ」
「じゃあ、早速インタビューしようか」
「あ、はい」