愛を育んだ先にある物
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比奈は、だいぶ外に慣れたようで、ひとりで大学にも通えているし、拓人を呼び出す回数も減った。
それでも、まだときどき夜うなされていたり、男に必要以上に過敏に反応したりするし、拓人にすら触れさせない。今のところ比奈が触れられるのは俺だけだ。妙に勝ち誇った気分になってしまう。
今日も、大学が終わった比奈は拓人に連れられてスタジオの隅っこのパイプ椅子にちんまり座っていた。女性スタッフがクッキーで餌付けしている。
俺はすっかりリラックスして、セットの中で写真を撮られていた。俺はあまり笑ったりしないでいいから楽だ。
撮影を終えて、比奈のもとへ行く。すっかりクッキーによる餌付けは成功していて、女性スタッフと仲良くお喋りしている。
「比奈」
「あ、先輩、これ美味しいですよ!」
「ん」
比奈の手にあったクッキーを咥える。唇が比奈の手に当たって、比奈はわたわたと顔を赤くした。
「比奈ちゃん可愛い〜!」
「そうでしょう」
「一家に一台欲しいわー、癒し用」
「あげませんよ」
「尚人くんばっかりずるい」
「比奈、帰るよ」
「う、はい」
まだ赤い顔をしている比奈の手を取って、拓人の元へ行く。
「もう帰るか?」
「うん」
拓人のワゴンの後部座席に乗って、拓人に見えてないのをいいことに、いちゃついていると、声が聞こえる、と拓人から注意された。比奈は顔を真っ赤にして俯いた。
「こういうのは聞き流すのが大人だよ」
「いい年して人前でいちゃつくんじゃない」
「俺まだ二十一だもんねー」
「比奈はまだ二十歳ー!」
「まったく……」
ため息をついた拓人に、比奈とふたりで笑う。
「だいたい、お前に言われたくないよ」
「……それに関しては、何も反論できないな」
マンションに着いて、車を降りる。
「ありがと。明日の予定は?」
「あとでメールする」
「分かった」
「拓人さんさよならー」
「Ciao ciao!」
笑顔で手を振った拓人と別れ、エレベーターに乗る。比奈としっかり手をつないで。
赤ちゃんがどうとか、まだまだ俺には全然考えられないけど、いつかは……。
「ね、比奈」
「う?」
幸せな家庭が築けたら、と心から願う。
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