愛を育んだ先にある物
09

 最近、特に男子を避けている感がある。

「なんかあったの?」
「……なんもないよ」
「そう?」

 私は首を傾げて、講義の準備をしている比奈を見る。すでにガリガリなのに、また痩せた感じがする。
 男に過敏に反応するのは前からだったけど、最近拒絶反応がさらに顕著だ。手を伸ばされただけで過呼吸を起こしかけたりする。男の子たちのあいだでも、癒し系の比奈ちゃんがご乱心だということで、やすやすと近づいてくるやつは少なくなった。しかしそれを知らない先輩や後輩が比奈に話しかけると、比奈は失神寸前のような青い顔をしてぴゃーっと逃げ出すのだ。
 絶対なんかあったな、とは思うけど、無理に詮索する気はまったくないし、こっちはこっちで忙しい。今の彼氏は構ってちゃんなのだ。メールの返事が遅れたりするとすぐ拗ねる。面倒だけど、なんだか可愛くて憎めないのだから困る。

「きららはさー」
「何?」
「赤ちゃん欲しい?」
「はあ?」

 突然何を、とは思うが、よく考えれば比奈はいつも何でも突然だ。私は少し考えて、首を振った。

「育てるのとか面倒そうだし、まだ学生だし、いらないかな」
「じゃあ、卒業して結婚してからは?」
「そのとき次第だよ」
「ふーん……」
「比奈は赤ちゃん欲しいわけ?」
「欲しい!」

 比奈の彼氏はあの柳尚人。この大学ではわりと有名なことだ。何度か一緒に授業を受けているところを目撃されているし、大学まで迎えに来ることもある。私も一度だけ生で見たことがあるが、あんな美人はそうそういないと思う。なぜあんな人が比奈と付き合っているのか、ものすごく疑問だ。

「あ、授業はじまる!」
「……」

 柳尚人といえば、スキャンダル王子だ。いろんな女優やタレント、モデルとの交際が報じられていたが、それはすべてデマだと比奈は言う。まあ正直興味はないが、比奈がそう言うのならそうなのだろうと思うことにしている。
 教授の話を聞きながら、比奈は一生懸命ノートをとっている。私はそれを横目で見て、のろのろとノートに書き写す。途中で飽きて、ノートの端に落書きをしたりしていると、比奈がちらっと私を見て言った。

「きらら、ちゃんと勉強しなきゃ駄目だよ!」
「だって、般教なんてだるくてやってらんないよ」
「おべんきょ!」
「うるさいなあ」

 渋々、ノートに目を戻す。適当にメモをとりながら、私ははやく鐘が鳴らないかと貧乏揺すりしていた。