同情するなら金をくれ
05

「なに?」
「お前今すぐ出てけ。なんかムカつく」
「不愉快」
「はあ?」
「たっくんたち何言ってんのー。先輩とってもいい人だよ」
「あのな、比奈」
「今度先輩のおうちに、タマに会いに行くんだー」
「え、来るの?」
「駄目ですか?」
「別に駄目とは言ってないけど……」

 そのとき、俺は初めて外野が静かになったことに気づいた。
 ぽかーん、とした顔の金髪と眼鏡、そんなことには興味がないのか携帯をいじっている梨乃ちゃん。うち二人が、呪縛が説けたように怒鳴り出す。

「何言ってやがる!」
「比奈、危機感ないね」
「えっ、なんで?」
「こんな男の家に行ったら食われて骨までしゃぶられるぞ!」
「ひいい!」

 顔をサッと青褪めた比奈ちゃんに、調子付いたように俺の有り得ない食生活を吹聴している二人は、なんだか必死そうに見えてとても楽しそうだ。
 そして、その一部始終を携帯片手に見ていた梨乃ちゃんが、あきれたように呟く。

「つーかさ、猫ぐらい別にいいんじゃない?」

 がばっと男二人が梨乃ちゃんを睨みつけた。そして俺も彼女を見て、その遠い目を見て何だか絶対、と思う。

「今すっごい失礼なこと考えなかった?」
「別に。比奈相手じゃ先輩の元気君でも萎えるんじゃないかとか思ってないです」
「……」

 思っているんじゃないか。
 俺はそこまで女の子にがっついているわけではない。向こうが寄ってくるわけで、そしてそれを相手にしているだけで。むしろ、しなくていいならそれがいい。体力を消費しなくて済むし、添い寝だけでじゅうぶんである。
 が、そんな思いはどうやら露ほども梨乃ちゃんには伝わっていないようだ。別に、いいけれど。

「いいじゃん、猫見に行くくらい」
「梨乃お前、それがどういうことか……!」
「高士暑苦しい」
「これだから、尻軽女は……」
「翔太、気持ち、悪い」

 梨乃ちゃんが一言一言区切るように冷淡に吐き捨てる。それでも追い縋る二人にうんざりしたのか、梨乃ちゃんはため息をついて言った。

「じゃあ、あたしも比奈と一緒に行く。それでいいでしょ?」
「尻軽女が同伴したところで何が変わるって言うんだ」
「あんたら殴るよ」

 俺が完全に蚊帳の外という顔をしていると、比奈ちゃんがにこにこと話しかけてくる。

「あのね、先輩、タマちゃんを病院に検診に連れて行ってほしいのです!」
「うん、来週ね」
「はい!」
「比奈! そんな男と話すと病気になるぞ!」
「えっなんで」

 人を病原菌扱いしやがって。苛立ちを抑えてにこりと金髪に微笑みかけると、ちょっと鼻白んだふうにまごついた。自分の美貌がこんなところで得をするとはな。