愛を育んだ先にある物
03
尚人先輩の指が、あたしの中心を掻き回して頭をおかしくする。
駆け足で階段をのぼるような、骨が溶けるような、死ぬってきっとこういうこと。たった指と言葉だけであたしを殺す先輩は、少し切ない吐息をあたしの耳元に落とした。
チカ、と頭の奥で何かが点滅を繰り返して、それから弾けた。
一瞬呼吸を奪われて、それから、戻ってくる。
「……、ぁ、は……」
「……比奈」
額に張り付いた髪が、長い指で払われて、そしてゆったりと押し付けるように、唇が落とされた。
拡散して、まとまらない意識でぼんやりとその行動を捉えて、それから目をつぶって次を待つ。
知っているから、これだけじゃ終わらないこと。このあと、先輩が「いい?」と聞いて、あたしは何がいいのかも分からないうちに頷いていて、あたしの中に灼熱が押し込まれる。
火傷しそうなくらい熱い、大好きな人の熱。ほんの少しの痛みとそれを凌駕する幸福感が、好きだ。
「……ひさ……?」
「……あのさ、比奈、分かる?」
「え?」
だけど、今日に限っては違った。腰に宛がわれるはずの彼の手は、あたしの両手首を軽く掴んで運び、そして指と手のひらに感じた、ジーンズの硬い布地。
「いつもと違うの、分かる?」
「……え?」
一瞬、意味が分からなかったけど、先輩の伏せた目を見て、それは些細なことではないんだと分かった。
「……なに……?」
「……たたないんだ」
目を伏せたまま、先輩は秘密を打ち明けるように、そしてきっとそれはたった今の今まで秘密だったのだ、呟いた。
「何が……?」
「あー、まあ、その、うん。……たぶん、俺の問題。……この前、した時、比奈、途中で血出たでしょ?」
「えっ、あ、あれは、生理で……傷がついたとかじゃない、し、痛くないし、もう、終わったし……?」
成沢先輩に襲われる前日のことだ。最中に生理がきて、えっちはなしになった。
「分かってる。……怒らないで、聞いてくれる?」
「……?」
「たぶん、俺」
次に、先輩が発した言葉に、体中の血が、一瞬、活動をやめた。