愛を育んだ先にある物
04

――こどもができることが、怖い。

「……比奈と、抱き合うこの行為が、梨乃ちゃんのこともあって、本来はこどもをつくるための事だって、分かって」
「……」
「今までだって分かってたつもりでいたけど、比奈の体が、赤ちゃんを受け入れる準備が出来てるんだって、目の当たりにしたら、怖くなった」

 早口になる目の前の先輩が、何を言っているのか分からなかった。
 言葉をつむげばつむぐほど、もともと白い顔はますます青褪めていく。

「……こども、ほし、く、ない。の……?」
「……分からない。分からないんだ」

 ぽつ、と頬にしずくが落ちた。はっとして上を向くと、先輩の瞳から一粒、涙が落ちるところだった。
 慌てて起き上がって、頬を撫でると、その手首を掴まれた。

「……俺は、親の愛情、とか、そういうの、全部成長しちゃってから、後付で知ったから……自分のこどもを愛せるのか、とか、そういう愛し方とか、分からない……」
「そんなのっ」
「比奈と、愛し合った結果だって、思うだけならほしいけど、こどもは、生まれたら責任を持たなくちゃいけないから、その責任、を、俺なんかがしょいきれるのか、とか」

 ひくっ、と先輩の喉が嗚咽で引きつった。
 先輩は、高校生のころよりずっと強くなった。大人になった。どっちのお父さんとも、きちんと向き合ってお話ができるようになった。
 だけど、根っこの部分を、ずっと無視してきた。みんな、あたしも拓人さんもお父さんも、先輩自身も。
 ずっと不安だったに違いないのに。いくらあたしや誰かがたくさんの愛情を今あげても、それは小さい頃尚人先輩がきっとほしかっただろう愛情ではないのだ。

「……比奈はっ、先輩との赤ちゃん、ほしい」
「……」
「比奈だって、赤ちゃん、初めてだもん。育て方とか、分かんないもん。でも、先輩と一緒だった、ら、できる、って、思ってたも……」
「……ごめん」

 先輩が、あたしの上からどいて、横に寝そべる。

「今日はもう寝よう」
「先輩……」

 なんて言ったら先輩を安心させられるのか分からなくて、あたしは一粒涙をこぼした。先輩が慌ててその涙を拭ってくれる。
 先輩も泣いているのに。あたしは先輩を安心させてあげられない。
 先輩の傷はあたしが思ってるよりずっと深くて、あたしにはどうすればいいのか分からなくて、ただ泣いた。
ふたりで泣きながら、いつの間にか、眠りについていた。