愛を育んだ先にある物
02

「何そわそわしてんだ」
「すいません……」

 比奈が心配だ。
 拓人が俺の携帯で電話をしているのを見た。そして拓人はスタジオを後にした。比奈からの電話に違いない。つまり、家に帰る前に怖くなってしまったということだ。
 大丈夫だろうか……夜中うなされて目が覚めて、パニックを起こして過呼吸になることも珍しくない。ぽつんと街の真ん中で過呼吸に陥っている比奈が想像される。そんなはずないのに、誰も助けてくれない、そんなビジョンが浮かぶのだ。
 心配なあまり気もそぞろになって、何度もNGを出す。休憩、とカメラマンが苛立たしげに言い、俺はパイプ椅子に座り込んで頭を抱えた。
 そこで、スタジオのドアが開く。

「先輩!」
「比奈」

 こちらに走ってくる比奈を抱きとめる。アッシュゴールドの髪の毛がふわりと揺れて、シャンプーのいいにおいがふんわり香った。

「大丈夫だった?」
「うん。でも、怖かったから拓人さん呼んじゃった……」
「いいんだよ、いくらでもこき使っていいから」
「おい、ヒサト。それはあんまりじゃないのか?」
「ごめんごめん。でも、そうでしょ?」
「まあな……」

 がしがしと頭を掻きながら、拓人が苦く笑う。

「すいません、もう大丈夫です」

 カメラマンに告げると、比奈のことをまじまじと見て、呟いた。

「妹さんか?」
「いえ、恋人です」
「えっ」

 えっ、ってなんだ。そんなに幼く見えるのか、俺の恋人は。
 若干ムッとするが、そこはスルーして立ち位置に立つ。メイクさんが俺の髪の毛を軽く整えた。
 さっきまで俺が座っていたパイプ椅子に比奈が座っている。目が合うと、がんばれ、と小声で言われた。俺は笑って手を振って、ポーズを決める。
 スムーズに、滞りなく撮影は終わり、カメラマンは首を傾げていた。

「恋人がきたくらいでリラックスできるもんか?」
「できますよ。可愛いでしょ」
「……」

 彼が無言なのも、理解はできる。比奈は、目ばかりぎょろりと大きくて、見ようによっては可愛いが、また別の視線で見ると、骸骨のようなのだ。身体もがりがりでほとんど肉がついていないし。
 でも、比奈は可愛い。世界一可愛い。