愛を育んだ先にある物
01

「ふんふんふーん」

 比奈が、うたいながら夕飯をつくっている。俺はテレビを見ながら、比奈の可憐な歌声に耳をすます。可愛いなあ、もう。
 ダイニングテーブルからちらっとその後ろ姿を見る。今日はハンバーグのようだ。比奈には少し背が高いキッチンで、比奈は背伸びしながらハンバーグを焼いている。それを見てふと、低い位置にあるキッチンってオーダーできるのかなあ、と思う。

「できましたー」
「ご飯よそう?」
「あ、お願いしまーす」

 茶碗にご飯をよそいながら、比奈が二枚の皿を持ってとたとたとダイニングにやってくるのを見る。小さな比奈の手でつくられたハンバーグは、小さい。ふたりとも少食なので、それは別にいいのだが、ううん、可愛いな。

「いただきまーす」
「いただきます」

 ご飯を食べながら、比奈がぽつんと言った。

「比奈、明日から学校はじまるです……」
「……ひとりで外に出れる?」
「……たぶん。分かんない」
「電車は、一番後ろの車両に乗って、教室では男の人の席からは離れて、帰りは競歩で帰ってくるんだよ」
「あい」
「怖くなったら電話しておいで。拓人が電話に出ると思うから」
「あい」
「拓人の車でスタジオまで来てもいいからね」
「うん」

 比奈をひとりで外に出すのは不安だ。突然パニックに陥ることもじゅうぶん有り得るし、何より俺が心配で心配でたまらない。学校なんて辞めさせたい。でも、彼女には勉強したいことがある。
 葛藤を続けていると、比奈が不思議そうに俺をのぞき込んできた。

「先輩?」
「あ、ごめん。考え事してた」
「最近多いですね」
「そうかな」

 自覚はある。俺はあることについて考えている。それを比奈にどういうタイミングで打ち明ければいいのか、分からないでいる。ただ、このままじゃいけないとは思う。

「変な先輩」

 比奈がハンバーグを口に運びながら、呟いた。