同情するなら金をくれ
04

 と、ふたりで和やかな空気を作り出してしまったのがどうもお気に召さなかったらしい。金髪がぎろりと眉を吊り上げ目を細めた。

「ただの先輩がわざわざお見舞いになんか来るもんか……?」
「同感」

 短く呟いた彼は、眼鏡を押し上げる動作が非常に様になっている。眼鏡にかかった艶のある黒髪をうっとおしそうに掻き揚げ、ふうとため息をつく。
 かまわずババ抜きを続ける比奈ちゃんの手にジョーカーが戻ってきたのと、部屋のドアが開いたのは同時だった。

「あっ! ジョーカー!」
「……比奈、元気じゃん」
「あっ、梨乃!」
「なんかお見舞いに来たのに拍子抜け……」

 梨乃ちゃんは軽く顔を歪めて大げさにため息をつき、それから所在無く立ちすくむ俺の腕を引っ張って床に座り込んだ。そして、テキパキと鞄から件のプリントが入ったファイルを取り出した。

「おい梨乃、比奈のお見舞いが拍子抜けとは何事だ!」
「何事って……そのまんまでしょう、こんなに元気になってるなんて見舞い甲斐がないじゃない」
「不謹慎だな……」
「黙れ。はい、比奈。これ期限明日の放課後までだってさ」
「うえっ、明日!?」
「比奈なら余裕だって」

 さっき見たときは気づかなかったが、数学の宿題かなにかのようだ。
 ドライな梨乃ちゃんに文句をいう男二人は、金髪が主に喋り、眼鏡が時折短い単語で相槌を打つという、なんとも奇妙なコントのようだった。

「あっ、先輩、タマ元気?」
「残念だけど、あの子の名前はわさびに決定したから」
「タマがいい!」
「……」

 飼い主は俺なのに、命名権は俺にはないらしい。軽くため息をつくと、おい、と上から声をかけられた。顔を上げると、照明にまぶしい金髪がとてもよく似合う男が椅子の上からこちらをにらんでいる。