寝耳には涙を流し込め
03

「じゃあ、行ってきます……」
「俺、付き添おうか?」
「大丈夫……」

 一緒についてきてほしいとは言ったけど、診察はひとりで受けることにした。尚人先輩が付き添ってくれたら心強いけど、女の人だらけといえど比奈をひとりにはさせられない。
 検査を受けているあいだ、不安で不安でしかたなかったけど、ぐっと涙をこらえることには成功した。

「おめでとうございます、十週目ですよ」

 全然、おめでたくない。目の前が一瞬真っ白になった。医者も、あたしのおめでたくない空気を瞬時に察したらしかった。
 どうしようどうしようどうしよう。
 診察室を出て、比奈たちのもとへふらふらと戻る。尚人先輩が異常を察してあたしの肩を支えてくれた。

「……妊娠、してたの?」
「……」

 無言で頷く。比奈がはっと息を飲んだのが分かった。

「か、顔色悪いよ、梨乃」
「とにかく、出ようか」
「梨乃ぉ」

 拓人さんになんて言ったらいいんだろう。なんて切り出したらいいんだろう……。堕ろせって言われたら、なんて返せばいいんだろう、ひとりで産んで育てていく自信は……まだ学生だし……。ああ、駄目だ、混乱してる。
 どうしよう。
 それだけが頭を支配した。