同情するなら金をくれ
03

「いらっしゃい、わざわざありがとう」
「いいえ。学校から近いですし。それより比奈、大丈夫なんですか?」
「ええ、朝よりだいぶ、今なんか……あら、そちらは?」

 俺と目が合った、比奈ちゃんによく似た瞳の、小柄な女性が首をかしげる。仕種までそっくりだ。彼女が年を重ねたら、きっとこんな感じになるのではないか、とまで言えてしまいそうだ。

「ああ、桐生先輩って言って、比奈の」
「こんにちは。比奈さんとはいつも仲良くさせていただいています、桐生です」
「まあ、そう……比奈が男の子と仲良くするなんて……なんだかうれしいわ」

 おばさんが、ふんわりと顔を綻ばせた。へにゃり、という効果音が似合いそうな穏やかなそれは、比奈ちゃんの笑い方とは少し違って、彼女はきつい、と言うと語弊があるが、もっと、あの大きな瞳がなくなるくらいに頬を持ち上げて、強く笑う。
 隣で梨乃ちゃんが、小さく、本当に小さく舌打ちをした。……妙に嫌な予感がして遮った、比奈の、のあとに何が続く予定だったのだろう。

「さあ、上がって。顔を見せてくれたら比奈も喜ぶわ」
「お邪魔します」

 靴を脱いで、廊下を歩こうとすると、梨乃ちゃんがおばさんに引き止められていて、先に行っててとジェスチャーされ、とりあえず歩を進める。
 『HINA』と木の板に木のアルファベットが置かれたプレートがかかったドアの向こうから、なにやら話し声が聞こえて、ひとりではないのかと少し不思議に思いつつ適当にノックをしてドアノブを回した。

「れ? 先輩だっ」
「あれ、もう元気なの?」
「はいっ、風邪には愛情こもった玉子粥が効くですよー」

 ドアを開けるとそこは異世界だった。
 ピンク、レース、リボン、花柄がどーんと迫ってくる。女の子の部屋に入るのは慣れていると言えば慣れているのだが、なかなかここまで徹底したお姫様の部屋には巡り合わない。
 お姫様のような白いパイプベッドには、ピンク色のパジャマを着て上半身を起こした状態の比奈ちゃんがいて、わりと元気そうだった。両手にはトランプを持っている。
 そして、ベッドサイドの椅子に逆向きに腰掛ける金髪と、ベッド脇に座る眼鏡。が、俺をジロリと一瞥した。

「……比奈、誰?」

 金髪のほうが、口を開く。それに眼鏡のほうも軽く頷いて、俺を軽くにらみつけ、鼻で笑うように息をした。

「学校の先輩だよー。はいっ、たっくんの番ね」
「おう、……ちっ、ジョーカーだ……」
「いひひひ」
「そんで? なんで学校の先輩がここに?」
「んん? 先輩、そういえばどうしたですか?」
「お見舞いだよ。昨日、やっぱり風邪引いたんじゃん」
「あはっ」

 ぺろっと舌を出し、照れたように頭を掻く。本当にもう元気なようだ、よかった。