指の隙間から零れたの
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 撮影は得意分野だ。今は写真集の撮影をしている。スタジオで撮るものもあれば、外で撮ることもある。なかなか忙しい時期だが、比奈をひとりにするのは気が進まない。比奈も俺にべったりで、ほとんど行動をともにしている。拓人はそれに呆れていたが、事情は知っているので黙っている。

「先輩、違う人みたいだったー」
「そう?」

 帰り道、拓人が送って行こうかと言ったが、彼には別の仕事があるので遠慮して、歩いて帰ることにした。手をつなぎながら電車に乗ると、一斉に注目を浴びた。一応サングラスをしているが、やはり俺の長身と彫りの深い顔は目立つのだろう。加えて、小さな女の子を連れているのだ、視線の嵐に見舞われるのはしかたない。

「このあとどうする? どこか遊びに行く?」
「んーん。おうちでのんびりする!」
「そう」

 あの事件以来、比奈は外で遊びたがらなくなった。以前なら俺が休みの日には映画や遊園地、買い物や水族館に出かけていたのに。
 理由がはっきりしているだけに、俺は少し切なかった。
 比奈が怖がるのは見たくないのだ。あまり触れないし、触れられない。
 拒否されるのが怖い、というのもある。その点で俺はまったく成長していないな、と思う。拒否が怖いなんて、昔の俺そのものじゃないか。思わず頭を掻いて、となりに座る比奈の手を強く握る。

「う?」
「うちで、何する?」
「えーと……お昼寝する!」
「比奈はよく寝るよね」
「寝る子は育つですよー」
「そう?」
「はい!」

 もう成長しない、試合は終了したと、誰かこの可愛い子に教えてやってくれ。そんなセリフが頭をよぎる。そして思い直す。それは俺の役目だ。

「比奈はもう大きくならないよ」
「む! なるですよ!」
「もう二十歳だよ。成長期とっくに過ぎちゃってるじゃん」
「……伸びるもん!」
「無理だよ。比奈だって分かってるでしょ、ほんとは」
「むむむ……」

 ぷすくれた比奈は、もじもじとパンプスの爪先を合わせて俯いた。ちょんちょんと爪先を合わせながら、伸びるもん伸びるもんと呟く。

「伸びませーん」
「先輩の意地悪!」

 ぷくっと膨れた頬を人差し指で刺すと、ふしゅ、と空気が抜けて、柔らかい頬に爪先が埋まった。ああ、この感触たまんない……。

「先輩! 着いたですよ!」
「あ、うん」

 降りる駅に着いて、俺と比奈は立ち上がって電車を降りて改札を抜けて、帰路に着く。いつもは拓人に送ってもらうので、散歩気分だ。比奈はつないだ手をぶんぶん振ってご機嫌そうにしている。

「お昼ご飯何にする?」
「んーと……あ、ご飯が余ってるから炒飯とか」
「一緒につくる?」
「あい!」