指の隙間から零れたの
07
ちゃりちゃりとキーホルダーを指で回しながら、俺はマンションの廊下を歩いていた。口笛まじりに自分の部屋の鍵穴にキーを入れると、空回りした。ああ、拓人、もう来ているのかな。
ドアを開けると、そこには想定外の光景が広がっていた。
「何……」
拓人のTシャツを上にかぶせられ、小さく縮こまって震えている比奈。俺そっくりの男の腹に乗って足を組み、やりきれないような表情をした上半身裸の拓人。
「……どうしたの」
「どうしたもこうしたも……強姦未遂だ」
聞かなくてもだいたい分かっていたことだけれど、俺はそう聞かずにはいられなかった。
比奈のもとに歩み寄り、そっと頭を撫でる。
「比奈」
「せんぱ……」
「大丈夫? 歩ける? 無理? ……ひどいな、これ比奈のお気に入りだろ……」
薄い緑色のシフォンワンピースは見事に裂かれ、比奈の白い肌を惜しげもなくさらしていた。それに言いようのない憎悪を感じ、俺は比奈を抱き上げた。少しの抵抗がある。
「比奈、俺が怖い?」
「……怖くない……」
「嘘つかなくてもいいんだよ」
「……ちょっと、こわ、い」
「そっか。今日はもう寝ようか?」
俺の問いかけに、比奈はこっくりと頷いた。寝室まで彼女を運び、ベッドに横たわらせる。そして、裂かれたワンピースを脱がし、俺のシャツを着せてやる。
「先輩」
「何?」
「怖かったよ……」
比奈が、俺に抱きついて離れない。一緒に横になりながら、頭をぽんぽんと撫でてやる。わっと泣き出した比奈を腕の中に閉じ込めて、泣き止ませようと背中をさすってやる。
「ひっく、ぅく」
「怖かったね。もう大丈夫だよ、俺がいるから」
「ぐすっ」
細い腕が俺の身体に絡みついてくる。その腕は小刻みに震えていて、俺をひどく悲しくさせた。よしよしと背中を撫でながら、俺の頭は冴えてゆくばかりだった。
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