指の隙間から零れたの
06

 いやだ、の形に開くはずだったあたしの唇は、成沢先輩の唇により塞がれ、望みもしない体温が口内に侵入してくる。
 気持ち悪い。
 手が動かない、口の中を舌が這いずり回るのが気持ち悪い、怖い、怖い、――『彼』じゃない。
 無意識に、上顎と下顎が噛み合わずに歯同士が擦れて音を立てる。おそらく、口内にいる成沢先輩の舌を噛んでいる。それでも、舌は怯まずにあたしの舌を追っては無理に絡めようと迫る。

「ん、んぐ、っだ、やだ……!」

 唇が離れて、あたしは必死で抵抗した。でも、男の人の力に敵うはずもなくて、シフォンのワンピースがびりびりと音を立てて破れていく。

「やっ、やあっ」

 成沢先輩は無言で、あたしのブラジャーを下げて、尚人先輩がつけた跡の上から新しく跡をつけた。
怖い、怖い、怖い。先輩、助けて。

「やだあぁ」
「やだやだばっかり、もう聞き飽きたんだよ!」
「ひくっ、ひさ、せんぱ……」

 首筋を這い回る舌に寒気がして、あたしはぽろぽろと流れる涙を止めることができなかった。お願いだから、やめて、誰か助けて。
 そこへ、部屋直通のインターフォンが鳴った。成沢先輩がとっさにあたしの口を塞いだ。

「んん! んー!」
「……」

 チャイムが三回鳴って、そのあと沈黙が訪れて、あたしは絶望に涙した。成沢先輩が引き裂いたワンピースを開いてあたしのショーツに手をかけた。

「Ehi、無用心だな、ヒナ……」

 がちゃりとドアが開いて、拓人さんが顔を出した。半笑いだったその顔が、すっと固まった。そして、我に返ったように成沢先輩の着ていたカットソーの襟を掴んであたしの上からどけて、怒鳴った。

「何してる!」
「うっ、ゲホッ」

 がつん、と拓人さんが一発成沢先輩の頬を殴った。それから、腹の上に乗って、着ていた紺地のTシャツを脱いであたしにかぶせてくれる。
 あたしはもうパニックだった。

「ヒナ」
「やっ……触らないで……!」
「ヒナ……」

 拓人さんがあたしに触れないように遠くから、腕を拘束していたエプロンをほどいてくれる。
 拓人さんが怖いんじゃない。男の人が怖いのだ。押さえつけられて、好き勝手されて、ぼろぼろにされる。そんな体験を昔にもしたことがあるような気がして、そのことを思い出している。男の人が怖い。