指の隙間から零れたの
02

 とある宝石メーカーの新作発表会に呼ばれた。当然記者たちに囲まれることは覚悟していたけど、覚悟していた以上の量の記者の数にはさすがにげんなりした。

「一般の方との交際について詳しくお願いします!」
「玲央奈さんとはどのような関係なんですか?」

 拓人が俺を記者の群れから遠ざけようと腕を掴むがそれを振り払って、しっかり前を見て言った。

「彼女は一般人ですが、僕の宝物です。玲央奈さんとは一度仕事の上で食事をしたことがあるだけです」
「つまり、一般の方とお付き合いしていると?」
「はい」
「どのような方なんですか?」
「交際は順調なんですか?」
「花のように愛らしくて、僕を癒してくれる人です」
「ヒサト」
「うわっ」

 拓人がむりやり俺の腕を取って記者団から遠ざけた。そして、怖い顔をしてぶつぶつと呪文のように文句を言いはじめる。

「お前は自分が何を言ったか分かっているのか? あんなこと言って、ヒナのほうに迷惑がかかったらどうするんだ。ちゃんと考えているのか?」
「考えてるよ。比奈は俺が守る」
「あのなあ……」
「それに、記者たちだって、一般人に手を出したりはしないよ。犯罪に手を染めたわけじゃあるまいし」
「まあ、そうだが……」

 拓人がぽりぽりと襟足を掻きながら、困ったような顔をした。そして、忠告のようにそっと呟いた。

「ほんとうの敵は記者たちじゃないかもしれないな」
「え?」
「彼女だよ」
「……」
「欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れる人間だとスタッフから聞いた。今のターゲットは、お前だ」
「……どんな手を使ってでも……」
「気をつけろよ」
「分かったよ」

 とは言っても、彼女ひとりに何ができるというものだ。
 どんなに力があると言ったって所詮は一人間と軽視していた。そのせいで、もうひとり、危ない存在がいるのを忘れていた。