同情するなら金をくれ
02

「え、付いて来る?」
「うん。猫の名前、決めたくて」
「猫って、昨日濡れてたとかいう?」

 期限が決められた大事なプリントが配布されたから、それから心配だから、と、梨乃ちゃんが比奈ちゃんのお見舞いに行くと言うので、俺も付いて行くことにした。
 意味が分からない、といったふうな顔の彼女に、あの猫は俺が飼うことにしたから、と言えば、怪訝そうな顔をされた。

「先輩が、猫? 飼えるんですか」
「まあ、大丈夫じゃない」
「ふーん……どんな猫?」
「茶色のトラみたいな毛に、薄緑の目で、たぶん生まれたばっかりで、かなり小さい」
「へぇ。それで、名前の候補はあるんですか?」
「一応昨日考えたのが、抹茶チョコと、わさびと、森さん」
「さて、お見舞い行きましょうか」

 ああ、俺のネーミングセンス株が暴落していやがる。そんな予感を抱えつつ、俺は梨乃ちゃんと並んで、学校からほど近いところにある比奈ちゃんの住むマンションを目指した。昨日も来たから場所はなんとなく分かる。
 梨乃ちゃんが、迷うことなく部屋番号を押し、通話ボタンを押す。少しの間が空いて、女の人の応答が聞こえた。

「あ、池田です。比奈に、プリントを持ってきたんですけど」
『あら、梨乃ちゃん! わざわざ来てくれたの、今開けるわねー』

 オートロックのドアの辺りでカツン、とわずかな音がして、通話も切れた。随分手馴れたその動作に、比奈ちゃんの母親らしき人の応答、どうやら彼女がここに来るのは初めてではないらしい。

「ああ、ほら、学校から近いじゃないですか。だから、何回か遊びに来てるんですよ」
「なるほどね」

 ドアからすぐのエレベーターに乗り込み、四階のボタンを押した梨乃ちゃんは、俺を振り返って何か考えるように視線を巡らせた。

「何?」
「……いいえ」

 怪しさ満点だ。とは言えそこをいちいちつつくこともなく、エレベーターを降りて近くの四○五号室に着いて、梨乃ちゃんはインターフォンを押した。
 ドアが開いて俺たちは中へと招かれる。