悪魔はヒールを鳴らす
08

「芸能人って、大変なんですね」
「やきもち焼いてくれないの?」
「えっ? だってこれ先輩じゃないもん」
「……まあ、そうだけどさ」

 なんか腑に落ちない。ちょっとさみしい。
 とは言えそんなことを言っている場合じゃない。仕事の告知のために開設してあるブログを開くと、コメント欄が炎上している。なんであんな女と、というファンの悲鳴や、礼央奈さんのファンからの誹謗中傷まみれだ。
 急いでコメント機能を停止して、釈明の記事を書く。
『一部週刊誌で熱愛報道がありましたが、これはまったくのでっちあげです。こちらも意味不明で戸惑っています。とにかく、誤解しないでほしいのは、僕には大切な恋人がいることと、玲央奈さんとは仕事上の付き合いしかありませんということです』
 記事をアップしようと送信ボタンにカーソルを合わせると、それを横から阻まれた。

「馬鹿か、こら」
「え、何が」
「さらっと恋人がいるとか書くんじゃない」
「拓人さん日本語読めるようになったですか?」
「だいたいはな。ひらがなとカタカナは完璧だ。漢字は難しいが、小学生の教科書で勉強した」
「すごいですねー」
「趣味だからな」
「もうアップしちゃった」
「おい、ヒサト」
「いいじゃん、この際だから、一般人との熱愛報道に変えちゃえば、玲央奈さんのことなんて皆記憶から飛んじゃうよ」
「……それは……一理あるな」
「でしょ?」

 明日からメディアは大騒ぎだろう。玲央奈さんのことも突っ込まれるだろうが、俺は真実を言うまでだ。比奈の笑顔を守るためならなんだってする。
 ノートパソコンを閉じて、比奈が持ってきてくれた紅茶をすする。熱かったそれはちょうどいい温度に変わっていて、俺は一気にそれを飲み干した。
 さて、玲央奈さんにはどういう報復をすればいいんだろう。黙り込んだ拓人をちらりと見て、俺はちょっとだけ笑った。

「何を笑っている」
「いや、忙しくなりそう」
「は?」

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