悪魔はヒールを鳴らす
07

「何これ……」
「俺が聞いているんだ、これはどういうことだ」
「知らないよ、俺」
「でもこれは完全にお前だろう」

 週刊誌のページを開いた状態で丸め、拓人が俺の頬にそれをぐりぐりと押し付けてくる、俺は戸惑うしかなかった。
 そこには、画質は荒いが俺と玲央奈さんが仲良く腕を絡ませあいながらタクシーに乗り込む白黒写真が掲載されている。こんなことをした記憶はない。拓人から週刊誌をひったくって文字を追うと、日付は比奈と外で食事をした日だ。しかも玲央奈さんのほうではブログでそれとなく交際を認めるような発言をしたと書いてある。意味不明だ。

「俺、この日比奈と外食してたんだけど」
「じゃあこれは誰だ」
「……俺だね……?」

 リビングに重たい沈黙が流れる。と、そこへ比奈ののんきな声が響いた。

「紅茶入りましたですよー」

 比奈が、テーブルにトレイを置いて俺と拓人に紅茶の入ったマグを配る。そして、広げられ打ち捨てられた週刊誌に目を向けた。そして眉をひそめて呟いた。

「……成沢先輩?」
「え?」
「これ、成沢先輩ですよ」

 比奈がまじまじと週刊誌の写真を見てこともなげに言った。

「成沢先輩って……?」
「比奈の先輩です。尚人先輩に似てるです」
「ヒナ、その、ナルサワっていう奴に連絡できるのか?」
「あ、はい。聞いたら分かると思うですよー」

 比奈が携帯を取り出して、耳に当てる。

「あ、りんりーん、比奈です! 先輩、週刊誌に載ってるですよー。え? 違いますよぉ、だって、尚人先輩と比奈この日、ご飯食べに行ったですよ」
「……はめられたな」

 拓人が苦々しく呟いた。

「はめられたって?」
「彼女からは何度かヒサトの番号を教えてくれとせがまれていたんだ。きっとふたりが出会ったのは偶然だろうが、ここまで似ているとごまかしがきかない」
「……お互いの利益の一致ってことね」
「それはどういう意味だ?」
「いや、なんでもない」

 成沢先輩、という男が、いくら芸能人で美人な玲央奈に頼まれたからといって無償で俺の役をするとは思えない。きっと彼は比奈に想いを寄せている。これは俺の勘だが、比奈が前に言っていた、俺の代わりにした男だと思う。
 比奈が通話を終えて、俺たちのほうを向いた。

「やっぱり成沢先輩だったみたいです」
「さて、どうする、ヒサト」
「え?」
「真実ではない、だがごまかしはきかない。どう切り抜ける?」
「ただの仲のいい友達とか言っとけばいいんじゃない」
「……それで済めばいいがな……」

 拓人は思案顔で、週刊誌に目を落とす。比奈が、紅茶をすすってため息をついた。