悪魔はヒールを鳴らす
03

 煙草を携帯灰皿に押し付けて、拓人が運転席に乗り込んだ。俺は比奈と一緒に後部座席に座る。手はつないだままだ。それを見た拓人が、優しげに微笑んだ。

「さて、まずはどこに行くんだ?」

 ハンドルを握った拓人がエンジンをふかす。

「どうする? とりあえず家電屋さんかな」
「OK」

 拓人の安全運転とはとうてい言えない荒い運転に揺られ(しかもマナーの悪い車や歩行者にものすごい不機嫌な顔でイタリア語で罵詈雑言を撒き散らしている)、目的地の家電量販店の駐車場に車が滑り込む。

「まずは冷蔵庫だ」
「あいやー!」

比 奈が冷蔵庫コーナーに突進していくのを、俺は半笑いで追いかけた。あとから、呆れた、というようについてくる拓人が、何かを発見して歩みを止めた。

「拓人?」
「軽いな」

 彼が手にしていたのは、最新モデルのデジカメだった。ぽん、と軽く投げては手に戻す動作を繰り返している。
 俺はそのまま比奈のあとを追ったが、拓人はそこから動かなかった。アッシーなので別に買い物についてこなくても支障ない。

「なんかいいのあった?」
「うーんとね、瞬間冷凍機能がね」
「野菜室が大きいのがいい」
「……先輩、お野菜食べるの?」
「……」

 なんにも反論できない。とりあえず、決めて、洗濯機とかも見て、次は照明器具コーナーに向かう。

「これとか、可愛い」
「リビングによさそうだね」
「寝室は、きのこがあるけど……」

 寝室には、比奈の私物だった、キノコ型の間接照明がひとつある。でももちろんそれだけじゃ足りない。

「比奈これがいい!」
「そう? 比奈が気に入るならどれでもいいよ」

 いくつかを選び抜き、レジに持っていこうとすると、店員さんが箱を持ってくれた。
 会計を済まして、箱を受け取って拓人を探す。彼は、まだデジカメのコーナーにいた。

「買うの?」
「ああ、どうも今持っているものが調子が悪くてな。どうせなら最新モデルにしようかと思ってな」
「とりあえずこれ車に載せたいんだけど」
「ああ、分かった。今日は下見だけにするさ」

 こうして、家具屋やスーパーをはしごして、日用品と家具と家電を買い揃えた俺たちは、相変わらず拓人の荒い運転で帰路に着く。
 照明を取り付けて、即席で夕飯を作って風呂に入り、比奈が持ってきたシングルベッドにふたりで入り込む。

「狭いね」
「先輩のベッドもシングルだったですよ」
「そうだっけ? 俺また身長伸びたんだ」
「むむっ、比奈だって、二ミリ伸びたですよ」
「俺四センチ」
「……」

 むっとした顔で、比奈が布団を口元まで引っ張る。その額にキスをして、俺はおやすみ、と呟いた。

「おやすみなさい」

 比奈を抱きすくめて目を閉じる。シャンプーのいい香りがする。自分も同じものを使っているのに、違うにおいに感じる。ぎゅっと抱きしめて、俺は眠りに引きずられていった。