悪魔はヒールを鳴らす
02

「タマー、ご飯ですよー」

 フードを皿に盛り付けて比奈がタマを呼ぶと、どこからかしゃなりしゃなりとお上品に歩いてきた。そして、確認するように皿の上の飯のにおいをかぐと、口をつけて食べはじめた。

「じゃ、拓人が来る前に俺たちも準備しちゃおうか」
「はい!」

 ジーンズにロンT、という部屋着臭満載な服装の俺は、ロンTを脱いで、白いシャツにベストを着て、サングラスをかける。
 寝室から出てきた比奈は、花柄のミニ丈のワンピースの上にボレロをはおった格好だった。少し化粧もしている。相変わらず薄化粧だ。

「スカート短すぎない?」
「う? そんなことないですよー」
「短いよ。こんなの風が吹いたら一発じゃん」
「何が一発なんですか?」
「パンチラ」
「なぬっ」

 比奈が寝室に引っ込む。ちょっとして出てきた比奈は、黒いレギンスをはいていた。

「これでどうだっ」

 むんっ、と胸を張る比奈の頭を撫でて、まあちょっとダサい、と思いつつわしゃわしゃとつむじの辺りを掻き分ける。顔を引き寄せてキスをしようとしたら、インターフォンが鳴った。おざなりに唇を額に押し付けて、俺は小走りにリビングに向かう。

「あ、拓人」
『はやく下りてこいよ。路上駐車は性に合わない』
「似非イタリア人め」
『俺は一応Giapponeseだ。それからイタリア人を馬鹿にするな』
「ああ、はいはい」

 通話を切って、鞄を肩から提げた比奈が、とたとたと近づいてくる。

「拓人さん?」
「うん。もう来たみたいだから、出ようか」
「あい」

 比奈は赤いパンプスを足に引っかけて、俺は先の尖った合皮の靴を履いて、玄関のドアを開ける。手をつなぎながら廊下を歩き、エレベーターに乗る。そして、さっきできなかった比奈の唇へのキスを敢行する。

「きゃっ」

 比奈が驚いたように唇を両手で押さえる。ふっと笑うと、比奈の顔がぷくぷくと真っ赤になっていく。

「破廉恥ですよっ、先輩のお馬鹿!」
「何、キスくらい」
「くらいじゃないですっ」

 笑いながらエントランスに出ると、拓人がワゴンに寄りかかって煙草を吸っていた。

「行くか」
「うん、ありがと」
「ありがとです!」