悪魔はヒールを鳴らす
01

「よいしょっと」
「比奈、その辺にカーテンない?」
「あいあいさー。えーと、カーテン、カーテン……比奈のお部屋のしかない……」
「じゃあ、カーテンも買いに行かなきゃね」
「あい」

 マンションに引越しをした。これで退屈なホテル暮らしとおさらばだ。何の変哲もない、ちょっとだけ豪華なマンションの最上階、角部屋。2LDKで、リビングがべらぼう広い。キッチンはIHで風呂の浴槽は標準より少し大きい。
 比奈の少ない持ち物は寝室へ。俺は身ひとつでこの部屋へ。あらかた片付けたら、午後からは家具を見に行く予定だ。
 俺は、床の上に座って買うものリストに目を通す。テレビ、ソファ、ベッド、冷蔵庫、掃除機、洗濯機、テーブル、椅子、カーテン……。その他もろもろ。ちなみにキッチン用具は比奈と梨乃ちゃんがルームシェアしていたときに使っていたものをそのままもらってきた。掃除機や洗濯機は向こうが持っていった。梨乃ちゃんと拓人も、同棲をするらしい。あのふたりの同棲生活がいつまで続くか見ものだ。

「ご飯食べたらお買い物!」
「うん」

 インスタントのラーメンを食べながら、比奈と最終リストチェックをする。頭を寄せ合い、部屋を見渡す。

「テレビ置くテーブルみたいなのもいるよね」
「比奈DVDプレーヤーもほしいです」
「どうせならブルーレイにしない?」
「ブルーレイ!」
「それから、ベッドだけじゃ寝れないから、マットレスとシーツと布団だね」
「あっ、電器も買わないと!」
「あ、そうか」

 今は午前中だから日光で部屋が明るいから失念していた。さすが比奈。
 項目はどんどん増えていく。メモ帳の余白が残り少なくなってきた。カリカリとボールペンを走らせながら、春の風に揺れる比奈のアッシュゴールドのきらきらした髪の毛を眺める。

「あと、アイロンと、電話!」
「ああ、……どうしようか、大きいのは郵送にしても、持ち帰り大荷物になりそうだから、拓人に車借りる?」
「拓人さん今日は仕事ないですか?」
「さあ。とりあえず電話してみよっか」

 携帯をポケットから出して、拓人に電話をかける。

『Pronto?』
「あ、もしもし?」
『どうしたんだ? 今日は仕事はないぞ』
「あ、それならラッキー」
『ハ?』
「今日比奈と日用品の買い物行くんだけど、荷物運びに車貸してくれない?」
『……お前免許持ってないだろう』
「うん、だから平たく言うとアッシーになってほしいんだけど」
『アッシーとはなんだ?』
「とにかく、買い物付き合ってよ」
『……しかたない。今日は梨乃が大学で暇をしていたところだ』
「じゃ、準備でき次第うちのマンション来てね」

 通話を切って、比奈にOKサインを出す。比奈がにこっと笑って立ち上がる。