同情するなら金をくれ
01
「え?」
「だから、今日は休んでますよ」
「……ああ、そう」
「先輩?」
休み時間に比奈ちゃんを訪ねて一年生の階を訪れた。見当たらずにきょろきょろしていると、廊下の向こうから歩いてくる梨乃ちゃんを見つけたので話しかける。
「……だから言ったのに」
「は?」
「猫助けてずぶ濡れになってたんだよ」
「……」
眉を寄せた梨乃ちゃんが、猫、と呟く。説明すれば、比奈っぽい、と返ってきたので同調しておく。昨晩は意外と冷えたし、比奈ちゃんはいつも元気いっぱいだけれど別にだから身体も丈夫かって聞かれると、さあ、としか言えないのである。
「あ、そういえば、先輩またバイト首になったらしいじゃないですか」
ふと思い出したように梨乃ちゃんが何気なく振った話題に、意識せずとも顔が歪む。
「どこで聞いたの」
「隣のクラスの子。昨日遊びに行ったら先輩いなかった〜って残念がってましたよ」
「そういうことするから俺が首になるんだ、って言っといてよ」
「自分で言ってください」
「俺が言っても無駄なの、知ってるでしょ」
本当、苦労してますね。と梨乃ちゃんが若干の同情を込めてため息をつく。
今まで何度かバイトを変えたけど、どれも、俺を追いかけてやって来る女の子たちがうるさく騒ぐせいで、他の客からクレームが来て首になる。せめて静かにして店の売り上げに貢献してくれればよいものを、たとえば前のバイト先のファミレスの場合、安いドリンクバーで俺の上がりの時間まで粘っては、意味もないのにテーブル備え付けのボタンで俺を呼びつけて業務妨害をするような子がいるのだ。
だんだん職を見つけるのが困難になってきて、今回は早朝のコンビニにしてみた。朝はまったく苦手じゃないし、早朝なら、ファミレスのようにそうそう女の子は溜まれないだろうという目論みがあってのことだ。