何も言わなくていいよ
09

 暇だ。
 ホテルの部屋でテレビを見ながら、比奈を待つ。お昼休みはうきうきウォッチングの時間だ。予約を何時に入れたか聞き忘れたので、いつ来るかも分からない。
 ひとり掛けのソファにもたれて、不動産屋からもらってきた、めぼしい物件のコピーを見ていると、部屋のドアがノックされた。

「はい」
「比奈でーす!」
「あ、はいはい」

 ドアを開けると、髪の毛をアッシュゴールドに染めた比奈が緩やかにカールした髪の毛をいじりながら立っていた。
 さらりとその髪を撫でて、中に入るように促す。その大きな目できょろきょろと辺りを見回している比奈を後ろから覆いかぶさるように抱きしめる。

「っわ」
「可愛い。似合ってる」
「ほっ、ほんと」
「うん。すごく可愛い」
「くふふ!」

 口元に手をやって、比奈が照れたように笑う。自分でも満足のいく仕上がりだったのだろう。つやつやの髪の毛には天使の輪っかができていて、はにかんだ笑顔が最高に可愛くて、ほんとうに天使のようだった。
 抱っこして、比奈をベッドの上に落とす。スプリングが軋んだ音を立てて、やわらかに比奈を受け止めた。俺もその隣に寝そべって、比奈を抱き寄せる。

「せせせせっ、先輩! まだお昼ですよ!」
「何が?」
「う? 何がって……」
「もしかして期待した?」
「……!? してない! そんなのしてない!」
「あっそう」

 昨夜少ししか眠れなかったので、こうして横になっていると眠気がやってくる。比奈をぎゅうっと抱きしめて、俺は睡魔に引きずられていった。

「おやすみ、比奈」
「お昼寝ですかぁ?」
「うん……」
「おやすみなさーい」

 比奈は抱き枕になってくれるようだ。美容院の匂いがする髪の毛に鼻をうずめて大きく深呼吸して目を閉じた。比奈と一緒だと、質のいい睡眠になるんだよな、なぜか。そんなことをとろとろと考えているうちに意識が途切れて、起きると夕方だった。