何も言わなくていいよ
07

「先、輩……ぁ」
「比奈、比奈、ひな」

 柔らかな頬に唇を落とす。むずかるように首を振った比奈の首筋に吸い付いて、跡を残す。消えないくらい、強く深く濃く。
 もうずっと一緒だ。離れることなんてない。そんな想いを込めて比奈にキスをする。
 自分の腕の中で乱れる比奈を、目に焼き付けた三年前を思い出す。三年、かかった。それでも彼女は待っていてくれた。だからもう手放したりしない。今なら自信を持って言える。

「比奈、愛してる」
「ん、ん、ひな、も」

 どこもかしこも昔のまま、とは言えない。この三年間彼女にも俺にもいろいろあって、高校生のままの感覚ではいられなくなった。比奈は、俺がいない間誰かと恋をしただろうか。キスをして、身体をつなげただろうか。少なくとも、最近抱かれた跡はないように、見える。それに、たとえ比奈が誰かに心や身体を許していても、俺の自業自得だ、責める権利はない。……知る権利はもしかしたらあるかもしれないけど。

「ひ、な」

 絶頂に遠のく意識の中で、今ごろ梨乃ちゃんは拓人にうまいこと言いくるめられてホテルに誘われているところだろう、そう思った。

「比奈、」
「んん……」

 そっと抜け出して、ゴムの口を縛る。ベッドの脇にあったゴミ箱にそれを捨てて、目を閉じてかすかに震える比奈の後頭部に腕を差し込んだ。
 比奈が、すりすりと腕を移動してすり寄ってくる。腕を曲げて、比奈を腕に閉じ込めて、もう片方の手ではその柔らかいチョコレート色の髪の毛を撫でた。汗ではりついたこめかみの毛を払ってやると、猫のように俺の胸にすがり付いてくる。

「にゃー」
「……あ、タマか……」
「んんっ、ご飯の時間……」
「ちょっと待ってて」
「あい」

 ベッドから抜け出して、パンツとジーンズをはく。ベッドにしずしずと近づいてくるタマを抱き上げると、一瞬警戒されるが、すぐに懐いてきた。どうやら忘れられたのではなさそうだ。
 台所をあさって、フードを取り出す。その辺りにあった皿に空けて床に置いてタマも床に下ろす。
 そして、比奈の待つ部屋へとフローリングの廊下をひたひたとかすかな音を立てて歩く。

「比奈」
「……」

 寝てしまったようだ。すよすよと柔らかで規則正しい吐息が漏れている。狭いシングルベッドの縁に腰かけて、艶のあるきれいなチョコレート色をした髪の毛を撫でる。

「……ただいま」
「んっ」

 こめかみにキスを落とすと、むずかるように比奈が身をよじった。