何も言わなくていいよ
03

「比奈! 誕生日おめでとう!」
「ありがとう!」

 恒例となっている、比奈の誕生日会。少し浮かない顔をして帰ってきた比奈がちょっと心配だったが、特に口にせず比奈の実家へ向かった。本人が話したくないのかもしれないし、心配するほど大したことじゃないのかもしれないから。

「これ、俺たちからのプレゼント!」
「うわあ! すごーい! ありがとう!」

 お兄さんがプレゼント、と称して渡したのは、なんとノートパソコンだった。プレゼントの枠を超えているのではないだろうか。お兄さんから、というか、お兄さんと亜美さんとお母さんからのプレゼントのようだが。
 そんなことは気にしない比奈は、家に帰ってから開けるとか、これがあればレポート作りが家で出来るとか喜んでいた。
 高士からは白いテディベア、翔太からは香水、そしてあたしからは新しい時計だ。比奈はどれも嬉しそうに笑って受け取って、お礼を言う。

「みんなありがとう!」
「比奈ちゃん、生まれてきてくれてほんとにありがとうな!」
「うん!」

 プレゼント渡しも終わり、お母さんのつくった料理にみんなで舌鼓を打つ。相沢家の食事はほんとうに美味しい。料理がほとんどできないあたしにとって、比奈やお母さんは眩しすぎる。
 宴もたけなわとなったころ、あたしの携帯に拓人さんからの電話がかかってきた。

「もしもし」
『盛り上がっているみたいだな』
「おかげさまで」
『ヒナに代わってもらえるかな』

 あたしは、拓人さんからだと言って比奈に電話を渡す。両手で携帯を持って耳に当てた比奈が、はにかんで応対している。

「うん、うん、ありがとございます!」

 電話を渡され、まだ通話中なのを見て耳に当てると、リノ、と呼ばれた。

「なんですか」
『今年のヒナの誕生日の贈り物は、郵送できないんだ』
「え、どうしてですか?」
『ちょっと事情があってな』

 生ものでも買ったのだろうか。去年はたしかルカさんのブランドの洋服だったと思うが、今年はいったいなんなのだろう。

『次に帰るときに持ってくるよ』
「はあ、それ、比奈に言いました?」
『言わないさ』
「え? どうして?」
『フフフ』
「……?」

 その後二三言話して、電話は切れた。
 はて、次に帰るときとはいつだ? 彼はいつでも突飛な行動を取って、こちらには着いてから連絡がくるので、困っている。
 もう二ヶ月ほど会っていないので、とりあえず三月中であればいいな、と思った。