淋しいとただ言い訳を
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 泣きながらあいたい、あいたいと繰り返す比奈は、あまりに可哀想で壊れてしまいそうで、怖かった。悲しかった。
 思わず、あたしの目から一粒涙がこぼれた。

「あい、たい……」

 悲痛な想いが、先輩に届くことはない。彼は今どうしているだろう。
 泣き続ける比奈を抱きしめたまま、夜が深みを増していく。今頃イタリアは陽気な昼間だ。バレンタインデー、そこかしこで贈り物のやり取りが行われているに違いない。
 泣きながら抱き合うあたしたちは、この部屋に取り残された小さな子どものようだ。鼻をずずっとすすって気合いで涙を止める。あたしが泣いてどうするんだ。
 比奈の背中をさすりながら、あたしは呟く。

「大丈夫、先輩は帰ってくるから」
「あいたいよ……」

 静かに泣き続ける比奈の身体を起こして、支えながらリビングへ促す。椅子に座らせてあたしはキッチンで紅茶のティーバッグにお湯を注ぎ、待つこと三分、適当に牛乳を入れて比奈の前のテーブルに置く。

「……ありがとう」
「いいえ」

 泣き止んだのか、比奈は時折鼻をすすりながら一口飲む。泣き笑いの顔で比奈があたしに言う。

「成沢先輩とは、もう遊ばない」
「うん」
「比奈はやっぱり先輩がいい」
「うん」
「だから、さみしくても待つよ」
「うん」

 相槌を打ちながら、紅茶を飲む比奈を見つめる。少し眠たそうだ。

「比奈、風呂入ってもう寝ちゃいな」
「うん、梨乃はお風呂入った?」
「入ったよ」

 最後の一口を飲んだ比奈が、とろとろと風呂場に向かう。それを見届けて、あたしは自分の部屋に入った。
 ベッドに横になって考えるのは、比奈のことだ。もう五年の付き合いになるんだよなあ、と感慨深くなる。あんな性格だから、大学でもひとりしか友達がいないらしい。何度か会ったことがある、可愛くて一見無害そうに見えて腹黒い、きららちゃん、だったか。まあ、比奈に被害が及ばないなら、どんな性格でもいい。
 いろいろ考えていると、眠くなってきた。
 さみしいと泣く比奈の夢を見た。

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