淋しいとただ言い訳を
13

 帰ってきた比奈は泣いていた。

「比奈!? どうしたの?」
「……比奈、間違ってた……」
「え?」
「ごめんね、梨乃……」

 靴を脱ぐのもそこそこに、比奈が玄関にうずくまる。とりあえず、洗面所からタオルを取ってきて、比奈のぐしゃぐしゃになっている顔を拭く。嗚咽が収まるのを待って、極力優しく問いかける。

「どうしたの? ゆっくりでいいから、話してみな」
「……比奈、さみしかったんだ」
「え?」
「成沢先輩は、尚人先輩じゃないって分かってたのに……っさみしくて」
「……」
「でも、違ったの」
「何が?」
「さっき、成沢先輩に、キスされた……」
「……」
「……っ尚人先輩じゃ、なかっ……」
「……」
「間違ってた……」

 恐れていたことが起きてしまったんだ。成沢先輩から誘われるたびに、楽しそうにしながらもどこかさみしげな横顔を、知らないはずはなかったのに。どうして止めてあげられなかったんだろう。
 いつか絶対こんなことが起こると分かっていたのに、楽しそうな比奈には言えなかった。成沢先輩が、比奈の笑顔からさみしさを取り去っているような気がしたから。尚人先輩から離れて、成沢先輩自身を好きになれたならいいな、なんてのんきに構えていた。
 比奈の中にいる尚人先輩は、比奈の心に根を張りどっしりと存在していたのだ。尚人先輩だけが比奈の特別だった。それを分かってあげられていなかった。

「……梨乃が、正しかった……」

 いつかのケンカのことを言っているのだとすぐに気づく。あたしは首を振って、比奈の頭を撫でた。

「ごめんね、あの時あたしがもっと違う言い方してれば……」
「違う! 梨乃は悪くないんだよ……比奈がさみしかったから、だから……」

 たまらず目の前の小さな友人を抱きしめる。
 こんなにずたぼろになって、心は傷だらけになって、そうさせているのは先輩なのに、先輩にしか傷を治せないなんて。
 あたしがこうして抱きしめたって、比奈の傷が癒されることはないのだ。そう思うと無性に苦しい。

「……先輩に、あいたい」
「……ッ」
「あいたいよぉっ……!」
「比奈……」